まだ肌寒いこの夜はホワイトデーディナー、我が家お馴染みの「レストランひらまつ 博多・中洲川端(Restaurant Hiramatsu Hakata)」に向かう。思えば「平松宏之シェフ主催 特別ガラディナー」などもあり、最近はひらまつグループでも「リストランテASO 天神」が続いていた。ここ「ひらまつ博多」は大型商業施設「博多リバレインモール by TAKASHIMAYA」の2階。
「タカシマヤ キッズパティオ」があるフロアなので、夕方でも子供の声がしていて不思議な気分だ(笑) その関係でランチには子連れも多いとの事で、食育として九州・有機食材を使用した「お子様特別メニュー」も豊富に取り揃えている。「牛肉100%のハンバーグ」など人気だそうだ。この夜は平日で客も多くはなかったのだが、久しぶりに個室をお願いする。

20160325hiramatsu2

いつものウェディング仕様個室ではなく、新レイアウトになった部屋を用意してもらった。長く続く廊下を抜けて一番奥、遮音性高い分厚い扉を開けると、重厚なアンティーク家具に絵画も飾られた、ひらまつらしい落ち着いた空間が広がっていた。春田英幸支配人や松隈祐一郎副支配人に近況を聞きながらワインリストを眺める。
まずは乾杯しよう、グラス・シャンパン「ドゥラモット ブラン・ド・ブラン ひらまつ(Delamotte Brut Blanc de Blanc Hiramatsu)」で軽く喉を潤す。美しいカットグラスに注がれる「ドゥラモット ブラン・ド・ブラン」は、言わずもがな「サロン ブラン・ド・ブラン」が出来なかった時に作られるシャンパン。ひらまつグループではハウス・シャンパーニュとしてオリジナルのラベル(Hiramatsu/Aso)で出している。

20160325hiramatsu3

福岡はワインが余り出ないため、ひらまつのワインストは質・量ともに縮小傾向(それでも福岡のレストランの中では多い方)。シャンパンも定番(サロンやドンペリ)以外はかなり少なくなった。同グループの東京・大阪に比べると、他地域はやはり苦戦していると言う。それでも4月からワインリストを大幅に改訂予定との事なので期待したい。
アミューズはこれまでとやや趣向を変えて3点盛りで登場する。ひらまつ定番「グジェール」。「豚肉のリエット」はトリュフソースが仄かなニュアンス。軽く燻製にかけた「サーモンのムース」は滑らかで、黒大根・香辛大根などみずみずしい野菜と共に頂く。いずれも優しく食欲を刺激する。続いて「ホワイトアスパラガスのピューレ、ヤリイカ」。白いプレートに涼やかな盛り付け通りモダンな味わいだ。

20160325hiramatsu5

散らされた草花と白が爽やかに美しい。長崎産ヤリイカの表面を焦がして、的確な塩気と共に繊細な甘さを過不足なく引き出す。ホワイトアスパラガスの瑞々しさの奥にある野菜の甘さと、ヤリイカの甘さが仄かに寄り添いながら共鳴する。コーンのニュアンスが出るホワイトアスパラガスに合わせて、コーンスプラウトも飾ったとの事。
更に続く料理は「オマール海老のメダイヨン」。ジャガイモのピューレを台座に見立て、上にはキャビアを乗せた一皿だ。グリーンとオレンジが美しく点描されたソースはポワローと柚子。柚子の凝縮した柑橘系のニュアンスに、ポワローの風味が重なり合う。繊細ながら美しくピシッとまとまった味わいだ。実はこの少し前に「ひらまつ博多」に来た時にも感じていたのだが「料理(味)が変わったよね??」

20160325hiramatsu4

尋ねてみると、何と!福岡統括の水元康裕料理長がひらまつグループから独立する事になり、「ひらまつ博多」にも新料理長が就任したばかりと言う。長年こちらに居た上で「ラ・フェットひらまつ大阪」「ひらまつパリ」を経た29歳の新進気鋭の土生将之シェフだ。水元料理長のクラシック・フレンチとはまた違う、若々しい現代フレンチを楽しめる事になりそう。
広尾の本店も含め、現在ひらまつグループでは世代交代が進んでいて、長年勤めて来た古株スタッフ(福岡出身の槇原ソムリエや杉山ソムリエなど)も羽ばたいていると言う。そんな話をする中、この日「ブラッスリー ポール・ボキューズ 博多」に入っていた水元料理長と長坂滋郎福岡統括が、わざわざ挨拶しに部屋まで顔を出してくれた。18年の長きに渡って「ひらまつ博多」を支え続けた水元シェフ・・

20160325hiramatsu6

色々と思い出話も尽きないが、次の新たなステージでの活躍も楽しみ。再会を約束して握手をした。客は最終的には「人」に付くのだが(レストランしかり、鮨屋しかり)、そのデメリットも厭わず変化し続けるところが、一部上場企業「株式会社ひらまつ」ならではの新陳代謝だろう。客としてはその思い切った若手抜擢による変化を楽しめるとも言える。
さてさて料理の話に戻ろう、続いては「フランス産鴨フォワグラのポワレ」だ。佐賀産グリーンアスパラガスは微かにシャキシャキ感を残し、適度な塩気が旨みと苦味を引き立てる。「トゥニー・ポート」とジュのソースと伊予柑、黄金律のマリアージュ。そしてこの一皿に添えられたがポートワイン「ドン・ロゼス(Porto Dom Rozes plus de 40 ans)」。

20160325hiramatsu7

40年以上熟成されたオールドポートだ。1855年設立のロゼス社(原点はボルドー)シンボルとなっている丸いボトルが個性的だ。ドウロ地区のワイナリー「キンタ・ド・モンスル」において、ドウロ・ヴァレー産葡萄100%で作られる。ブランデーグラスに注がれると濃い琥珀色。コーヒー・ドライフルーツ・スパイス・・
熟成した濃厚な味わいで余韻も長い。妻は「食後にも飲みたい♪」と気に入った様だ。フォワグラにポートワインを合わせると言うクラシックでありながら、モダンに仕上げているところが「ひらまつ」らしい楽しさだろう。そろそろ赤ワインをボトルで開けて行こう、リストから選んだのは春田ソムリエお勧めの「シャトー・アンジェリス(Chateau Angelus) 2001年」。

20160325hiramatsu8

7代目当主ユベール・ド・ブアールによってサン・テミリオン・プルミエ・グラン・クリュ・クラッセAに昇格した(現在娘ステファニーが全株式保有)。華やかな黄色いラベルにはカトリック教会の「祈りの鐘」が描かれている。そういえば映画007シリーズ最新作「スペクター」にもまた登場していた(ビンテージは2015年)。
メルロー50%、カベルネ・フラン47%、カベルネ・ソーヴィニョン3%。15年経ってその熟成がどうなっているかも楽しみだ。春田ソムリエが丁寧にデカンタージュしていく・・深い赤紫色がサラサラ流れていく。熟したブラックベリー・太陽を浴びた皮・プラム・カシス・スミレのドライフラワー・・何とも芳醇な果実の香り。香りほどタンニンは強くなくスムーズに溶け込んでいる。

20160325hiramatsu9

メルローとカベルネ・フラン中心のアンジェリスらしいふくよかでエレガントな熟成。舌先に黒砂糖のような甘さが乗り、炭焼きコーヒーの微かなニュアンスが心地よく、余韻には美しい透明感が印象に残る。そんなリッチで上品な味わいが正に我が家好みだった。戻って料理の話、この夜の魚は「玄海産ノドグロのポワレ ブイヤベース仕立て」。テーブルで熱々のブイヤベースが注がれて完成する。
脂がのった玄海産ノドグロ(アカムツ)に、ロースト後ブイヤベースで炊いてイエローに色づいた柔らかいカブ、更に春到来を告げるタケノコをグリエして添えた。爽やかな歯ごたえの新筍や菜の花の食感と、ジューシーなノドグロの食感の差もまた楽しい。透き通るようにピュアな旨みが溶け出したブイヤベースソースにはハーブも香り立ち、繊細に全体の印象をまとめ上げる。

20160325hiramatsu10

そしてメインの肉は「オーストラリア産仔羊のロースト」、いわゆるソルトブッシュラムの登場だ。低温でオーブンでじっくりローストし、ミネラル豊富な肉質の特徴を存分に引き出した一皿。存在感のある脂を、ペリグーソース・トリュフの香りと共に楽しむ。付け合わせは、ローストした新ジャガイモ・タマネギ、クレソンやさやいんげんのフリットも春らしい美味しさだ。
菜の花の苦みが効いた「春野菜のスープ」は、濃厚でベーコンの味わいが活かされて良かった。「アンジェリス」がピタリと寄り添うマリアージュのプレートであった。満足した所でデザートが運ばれて来た。ピンクが何とも華やかで春そのもののプレート。ふんわり香るのは桜?!「桜とベリーのスープ仕立て」だ。ハイビスカスやローズの香りにもっちとした食感が続き、まさに「桜餅」を彷彿とさせる。

20160325hiramatsu11

この季節ならではのチャーミングな味わいをサッパリと頂いた。と更にもう一皿大皿で運ばれたのは、ポステルピンクのホールの「苺のムース」だ。プレートには愛のメッセージと、エッフェル塔と薔薇の蝋燭には火が灯されている。妻はキャ~♪と大喜び「何てロマンティックなの?!」とテンションも更に上がる。
何も言わなくても色々好みを分かって貰えているところが、長年通い続けているレストランならではの安定感。ハーブティーも運ばれ、幸せなディナーを締めくくる。最後は、料理長に就任したばかりの土生シェフも挨拶に顔を見せて歓談。急きょメニュー構成してくれたコースだったのだが、流れもあって食べ応えもあった。

20160325hiramatsu12

素材を活かした現代的な料理の中に、メリハリのついた塩気や味の引き出し方などにセンスを感じる。もう少しプレートの盛り付けにも華やかさや個性が出てくると更に良くなりそうだ。29歳の若き料理長の今後に期待大だねと話しながら、手を振り店を後にした。