ルイ・ヴィトン表参道店で2016年春夏レディース・コレクションのプレヴューショーを楽しんだ後は、銀座中央通り松屋銀座のお向かいにある「シャネル銀座ビルディング」に向かう。2004年、ニューヨークの建築家・ピーター・マリーノ(Peter Marino)の設計だ。見上げればキルトレザーやツイードの様な波打つ黒のファサード(約4500m2)に、夜は70万個の白LEDが点灯し、シャネルマークやアニメーションが映し出さる。
ビル裏側カーテンウォールが交差する所にシャネルマーク。近年は順次ビル内下層フロアがリニューアルされた。「ブルガリ」「アルマーニ」など、今やラグジュアリー・ブランドの食分野進出は珍しくないが、日本ではやはりここ「シャネル(CHANEL)」が先駆けと言える。最上階にあるのが、アラン・デュカス(Alain Ducasse)とのコラボレストラン「ベージュ アラン・デュカス 東京(BEIGE ALAIN DUCASSE TOKYO)」。

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マロニエ通り側に自動ドアの入り口がある。シックなエレベーター内、ボタンもシャネルロゴだ。ちなみに駐車場壁面には「シャネルNO.5」のボトルが映し出されたりもする。10階の扉が開くと受付、そこから長く続くウェイティングスペース。照明でゴールドに輝くメッシュ・スクリーンが印象的だ。すぐに案内されるのは、窓に向かって広がる洗練のダイニング。
落とし気味の照明の中、夜景を映すガラスが天井まで届き、各テーブルがぼんやりと浮かび上がる。既に満席近く、女性客・カップルなど思い思いに楽しんでいる。壁やソファー・椅子・クッション、テーブルクロスまでベージュのツイード、仕切りパネルもツイード柄。随所にシャネルマーク、ココ・シャネル時代の写真や蛙の置物が飾ってあり、上品で静かなシャネルの世界観が楽しめる。もちろんスタッフの制服は

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シャネルのデザイナー、カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)が手掛ける。「BEIGE TOKYO」ロゴおしぼり(香水)など細部までこだわっている。我が家は夫婦共にもう20年はシャネルの香水を愛用していて、石鹸も同様なので我が家的には落ち着く香りでもある。トイレの入り口扉には、女性用はバッグ(シャネル・マトラッセ)が、男性用にはネクタイが掛けてある。
石鹸も「シャネルNO.5」と言うのはさすがだろう。今回私達がお願いしたのは以前も座ったテーブル席。段差上の落ち着いてじっくり美食を楽しめる空間。壁の間接照明が緩やかに浮かび店内を見渡せる。まずは乾杯しよう、ワインリストも様々なワインが配置されている(約400種のセレクション)。世界30店程あるデュカスグループ全てのワインを統括するジェラール・マルジョン(Gerard Margeon)ソムリエが監修しているだけあり、選び甲斐がありそうだ。

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大塚信秀シェフ・ソムリエと色々話しながら選んで行く。まずはグラス・シャンパンから。妻はやっぱりロゼと言う事で「ルネ・ジョフロワ ロゼ・ド・セニエ・ブリュット プルミエ・クリュ(Rene Geoffroy Rose de Saignee Premier Cru Brut)」をチョイス。キュミエール村に1600年代から続くレコルタン・マニピュラン「ルネ・ジョフロ」。
ピノ・ノワール100%、セ二エ方式で手間暇かけて造られるロゼは「世界最高峰のロゼシャンパーニュ」と言われている。美しく落ち着いた赤い色。ロゼ独特の甘さはなく、しみじみ味わえる上品なロゼだ。一方私は「ポメリー キュヴェ・ルイーズ(Pommery Cuvee Louise Vintage) 2002年」にする。

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我が家でも平日飲みとして登場頻度高い。1836年ランスに設立、1874年に初めて辛口シャンパンを世に出した大手メゾン「ポメリー」。「キュヴェ・ルイーズ」は1985年から造られるプレステージ・シャンパンだ。そこへ和皿でアミューズ「鎌倉野菜が乗ったミニパイ」2種が運ばれた。蕪と林檎のピューレの優しい味わいと共に喉を潤す。小島景シェフは、アラン・デュカス曰く
「世界で最も私の哲学を理解し実践する日本人シェフ」。モナコ「ルイ・キャーンズ」で3年副料理長をした後、青山「ブノワ」などを経て、2010年「ベージュ東京」に就任した。昨年秋には「ミシュランガイド東京2016」で2ツ星に昇格した(以前も一度小島シェフで2ツ星の時期あり)。そうだ、パリ「アラン・デュカス オ プラザ・アテネ(Alain Ducasse au Plaza Athenee)」もリニューアル後、

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先日「ミシュランガイド・フランス2016」で3ツ星に返り咲いた。ディナーコースは3種類。ア・ラ・カルトから好みの2皿が選べる「Collection Prêt-à-porter」、ア・ラ・カルトから好みの3皿が選べる「Collection Haute-Couture」、シェフお薦めの4皿「Menu du Chef」。ア・ラ・カルトから選ぶシステムは外す確率が減るから良い。我が家は3皿コース「Collection Haute-Couture」をチョイスした上で、
更にシェフお薦めコース「Menu du Chef」から気になった1品を追加してもらい、4皿を楽しむ事にした。アミューズ2皿目も和皿で登場した「野菜とコロッケのディップ」。小島シェフと言えば「鎌倉野菜」だろう。毎朝シェフ自ら電車で、鎌倉から銀座に運ぶと言うからすごい。これは、根セロリ・人参・千切り大根を、ほうれん草と桂向きした大根で包み込んでいる。黒オリーブとアンチョビのマヨネーズソース」をたっぷりと付けて楽しむ。

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更に添えられたのは、熱々の「ジャガイモとタラのコロッケ」。野菜の滋味深さは言わずもがな、オリーブの味わい豊かなディップソースがとても美味。「本コースが始まる前に既に味覚を刺激されていく。これはやはり開けるしかなかろうと、改めてワインリストのシャンパーニュを眺める。見つけたのはこちら、「ドゥーツ ブラン・ド・ブラン ブリュット(Deutz Blanc de Blanc Brut) 1988年」。
クリアボトルの中に揺れる緑がかった濃いゴールドが美しい。やはりラベルは時代を感じるデザインだ。1837年創立の「ドゥーツ」。アイ村から作り出されるブラン・ド・ブランは、「アムール・ドゥ・ドゥーツ」もちろん我が家のお気に入りの一つ。1992年以降はルイ・ロデレールの傘下となっている。これはその前でしかもグレートビンテージ、大塚シェフ・ソムリエによると最後の一本との事だ。

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熟成した姿に期待も高まる。シャンパングラスではなく敢えてワイングラスに注がれると、照明に浮かび上がる黄金の泡。そして蜜・洋梨のコンポートなど・・穏やかに美しい熟成香が流れ出す。シェリーやナッツ的な要素は思ったよりなく、それがかえって綺麗に熟した味わいを表現している。ドゥーツらしくエレガントでありつつ飲みごたえあるシャンパンに、妻の機嫌もますます良い(笑)
そこへ前菜1品目の「野付産帆立貝とラディッキオのグリエ、ブロッコリーのソテー」が登場する。余りにも大きな帆立貝がドンと鎮座しているので妻が驚いている。その周りには、グリルしたラディッキオと生のラディッキオ、ブロッコリーとそのピューレが敷かれている。温かい帆立貝から甘みが滲み出て、ヒモのソースが旨味を重ねつつ、野菜の苦味やブロッコリーの風味も混じり合う。シンプルな複雑さ、そんな相矛盾した美味しさ。

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それぞれの素材がきちんと主張しつつ、帆立の旨みに収斂していく。しみじみとした味わいに、小島シェフの料理はやっぱり美味しいなと改めて実感したプレートだった。そこへワゴンががやってきて、目の前でパンをカットする。2種のうち、レモンピールが練りこまれた方を妻は大層気に入っていた。そして次の前菜こそが、シェフお薦めコースの中から目を引いて追加してもらった「蝦夷鮑のヴァプール、冬野菜」だ。
春にかけて旬を迎える「蝦夷鮑」に冬野菜を添えたプレ-トだ。帆立の貝柱をベースに魚、クレソンからとったソースで仕立ててある。鮑でソースを作ると黒くなるのであえて帆立貝を使用したという。シェフお薦めコース「Menu du Chef」から選び、3皿が選べるコース「Collection」に追加してもらった1皿。前皿「野付産帆立貝とラディッキオのグリエ、ブロッコリーのソテー」に負けじと劣らない迫力だ。

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火を入れると縮んでしまう鮑をいかに美味しく提供するか、小島シェフが究極にこだわったそうだ。確かに吸い付くような柔らかさに続いて海のエキスが溶け出すような味わい。山本知典プルミエ・メートル・ド・テルの話によると、京都「瓢亭」「菊乃井」「草喰なかひがし」「祇園 さゝ木」との交流の中から3時間蒸す事を学び、小島景シェフ的にも「3時間ポシェが一番美味しい!」と言う結論に至ったとの事。
面白いのは添えられた野菜が、小島シェフ十八番の鎌倉野菜ではなく「瓢亭」からの紹介で京都から仕入れている京野菜だと言う(笑)シンプルに茹でただけという長葱の甘さや里芋の滋味深さを周りに配置した、味わい深く食べ応えのある一皿であった。次に登場したのは「オマール海老のポシェ、クルジュのロースト」。テーブルで香り立つビスクソースが注がれて完成する。

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ふっくらと美しく火の入ったオマール海老を、甲殻類の濃厚なソースで頂く黄金律の美味しさ。ズッキーニの収穫時期をずらして甘さを引き出したクルジェ。カボチャのような甘さがオマール海老の豊かな旨みに呼応し、ライスチップの食感と余韻がアクセントに収まる。いかにも「オマール海老を食べた」と言う満足感に包まれる、満足の一皿であった。
さぁここで赤ワインを楽しもう。ワインリストに見つけて思わず飛びついたのは、ボルドー・サンテステフ「シャトー・モンローズ(Chateau Montrose) 1970年」だ。妻は最近またはまっている「シャトー・ラトゥール」を希望していたし、実際シャトー蔵出しのQRコード付きという1982年にも惹かれるが、なかなか珍しいこれを飲みたい欲求には勝てなかった(笑) メドック格付け第2級ながら、

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1級に劣らない「シャトー・モンローズ」は、実際「サン・テステフのラトゥール」と言われている(5Kmしか離れていない)。1825年創設、現在はかのマルタン・ブイグ氏がオーナー。1970年代後半から造り方が変わるので、これはその前と言う事になり貴重だ。その昔ヒースの開花時に一面が薔薇色に染まる事から、モン(山)ローズ(薔薇)と名付けられたのだそう。
カベルネソーヴィニョン65%・メルロー25%・カベルネフラン10%。予想に反してまだレンガ色までいかず、茶色を帯びたガーネット。ソムリエも「飲み頃はいつ来るんでしょうね~」と驚いている。アタックから中盤にかけて膨らんだ余韻が最後まで広がる。ドライイチジク・甘草・・ハーブの爽やかさ。枯れかけた葉や土だけでなく牧草の青さも残している。果実味やフレッシュな酸も残るなど、

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熟成感とのバランスが絶妙に取れていてなかなかの美味しさだ。「これすごく美味しいじゃない!」とラトゥールをチョイスせず懐疑的だった妻も楽しんでいる。穏やかながらワイン愛に溢れる大塚信秀シェフ・ソムリエのワイン談義を聞きながら楽しめた。実はこの1970年は、ロバート・パーカーの「モンローズの最も偉大なヴィンテージ6」に入っている。
パーカー曰く「これを味わう喜びを知ったら、誰でもモンローズが『サンテステフのラトゥール』の名に恥じない、重々しいワイン生産してきたのは間違いないと認めるだろう」。ラトゥール同様に長期熟成向きだと言われるが、正にそれが実証できた1本であり、過去に飲んだ同「1970年(ムートン/マルゴー)など」の中でもトップクラスであった。

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そこへ運ばれた来たのが、メインの「北海道オークリーフ牧場仔牛、トピナンブールのソテー カリンのマーマレード」。ジュのソースがテーブルで注がれる。フォークを入れるとスーと抵抗なく切れていく「乳飲6ヶ月の仔牛肉」。ある意味非常にシンプルな仕立てだが、素材の質と的確な調理に対する自信が滲む。添えられたホクホクの菊芋も美味しい。
そしてソープの旨みに付け合わせのカリンの旨みが重なる。ふんわりなミルキーな肉質に、わざわざ熟した「モンローズ」を合わせたかの様な絶妙なマリアージュになった(妻も拍手)。「モンローズ」もまだ残っていたので、ここで「フロマージュ」も頂こう。メートルが抱えて来たのは14種類も並ぶトレイ。しかもチーズの熟成香がふんわり漂ってきて食欲をそそる。妻は蕩ける「シェーブル」、

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私は濃く熟した「コンテ」など食べ頃お勧めを頂き、ワインとじっくり味わえて満足する。そしてお待ちかねのデセールは、残しておいた「ドゥーツ」と楽しもう。妻はやっぱりスペシャリテの「カレ・シャネル ショコラ-プラリネ、ヘーゼルナッツのアイスクリーム」を選んだ。シャネルとのコラボレストランらしく、デュカスの代表作「ショコラ・プラリネ」を
「シャネル・マトラッセ」デザインにアレンジした物。一見してそれとわかる華やかさで、開店以来の定番。メートル・ド・テルも言っていたが、何よりサクサクのプラリネ感と濃厚な甘さこそが美味い。ショコラ専門店「ル・ショコラ・アランデュカス・マニュファクチュール・ア・パリ」をオープンさせたデュカスグループならではの、フランスらしいショコラデザートだ。一方私はこの季節ならではの「イチゴとアーモンドムースのサブレ」と迷ったが、

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結局ボリュミーな「リンゴのコンフィ、パッションフルーツ/キャラメル グラニースミスのソルベ」を選んだ。甘く爽やかな香りで、フレンチらしい美味しさを堪能できた。ハーブティーはやはりツイード柄のティーカップで。ガラスのトレイには小菓子、シルバートレイにはシャネルボタン型「カメリア・ショコラ」が並ぶ。そうそう今年のバレンタインは伊勢丹新宿で、
シャネルアイコンをモチーフとしたチョコレート(ブトン・シャネル/マカロン・ベージュ/カレ・シャネル/カメリア・ショコラ/マトラッセ)を限定販売したとの事。商標登録の関係でそう簡単には登場しないから貴重だ。帰りにはいつもの様に、パステルカラーのマカロン3個ずつお土産に頂く。ちなみにそれは、宿泊する「アマン東京」に戻って、ウェルカム・アメニティの「スミス&フック カベルネ・ソーヴィニョン セントラル・コースト 2013年」と共に味わった。

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素材にこだわると標榜するレストランは多いが、その素材の特徴や美味しさが、過不足なく客側に伝わる店は少なかったりする。余りにシンプルすぎるとビストロ料理になるし、複雑に旨みを昇華させるフレンチの良さがなくなる。そんな中小島シェフの料理は、どの素材を食べたか明らかな印象を残しつつ、フレンチらしい旨みも重なる。
そのバランスが素晴らしいなと改めて感じたディナーであった。どうしても「シャネル」ブランドのイメージが強すぎるレストランであるが、美食とワインのレベルを改めて感じた。若く緊張感もありつつ、エレガントなサービスのスタッフ陣も総じて良く、「また次の季節も訪れたくなるなぁ♪」と名残惜しそうな妻共々楽しい時間が過ごせた夜だった。

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