この日は紀尾井町「ホテル ニューオータニ東京」に宿泊。目的は2日間限りのグルメイベント、京都のミシュラン2ツ星、八坂通にある割烹「祇園 さゝ木」佐々木浩氏によるフェアが行われるからだ。前回宿泊時は、日本人初のフランスミシュラン2ツ星レストラン「Passage 53」のフェアだった。今回も「ベッラ・ヴィスタ(BELLA VISTA)」が会場。
そう言えばこちらのレストランでは、来月3月4日から3日間限定で、南イタリア屈指の高級リゾート・アマルフィ海岸の、5ツ星ホテル「イル・サン・ピエトロ・ディ・ポジターノ(Il Sanpietro di Positano)」から、アロイス・ヴァンランゲンアッカー(Alois Vanlangenaeker)エグゼクティブシェフと他スタッフ3名が来日するそうだ。イル・サン・ピエトロ・ディ・ポジターノ内のレストラン「ZASS」はイタリアミシュラン1ツ星。

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新鮮な海の幸を使った料理が楽しめるとの事。ニューオータニ東京は最近グルメイベントにも力を入れてるため、我が家も宿泊する機会が続いている。宿泊する本館(ザ・メイン)から「リュウ・ド・リボリ」を通って、ガーデンタワー40階にあるイタリアン「ベッラ・ヴィスタ」に到着。御婦人方が多くみられる中、案内されたのは前回(東京タワー側)とは反対の窓側、備長炭グリルのオープンキッチンが良く見えるテーブル。
流れるBGMはモダンな三味線だ。まずは乾杯といこう。今回の楽しみの一つは、ホテル全体の飲食部門を統括する谷宣英エグゼクティブ・シェフソムリエが、「祇園 さヽ木」の京料理に合わせたグラス・シャンパーニュを多数提供すると言う事。実際セレクトした「ベッラ・ヴィスタ」副支配人小山典昭ソムリエも自信満々の様子だ。レコルタン・マニピュランも数多く用意され、ワイン好きには楽しいリストに仕上がっている。

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中でもまず目を引いた「ユリス・コラン レ・ピエリエール ブラン・ド・ブラン エクストラ・ブリュット(Ulysse Collin Les Pierrieres Blanc de Blancs Extra Brut)」を頂くとしよう。「ユリス・コラン」は我が家お気に入りドメーヌの1つでもある。コラン家はコンジィ村で約200年前からブドウ栽培。
現当主オリヴィエ・コラン氏は、2001年からアンセルム・セロス氏の元で学び、2003年に自身のドメーヌ「ユリス・コラン」を創設、2004年が初ヴィンテージ(5400本)と言う新進気鋭だ。柔らかな泡、白ブドウ、少し甘露、繊細な余韻。ブランドブランらしく、ミネラルのきりっとした感じが余韻を程よく引き締める。ちなみに今回我が家のテーブルを担当してくれるのは、谷ソムリエの愛弟子・沼倉治美ソムリエール。

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ホテル全体の飲食部に所属し、ティーインストラクターでもある。テキパキとしながらも女性らしいたおやかな身のこなし、明るく会話も上手な事から妻も「彼女とってもキュートね♪」と気に入っていた。そんな楽しい食前酒中、気が付けばディナースタート時刻(18時半)を過ぎている。事前に「開始15分前には着席」を事前に言い渡されていたので、客は皆揃っているはずだが・・・
ん?見渡せば何やら会場スタッフに緊張感が走ってる。聞けば何と、佐々木料理長は19時開始と認識していたそうだ!結局料理が出るまで1時間近く待たされる事になる。年配客が多いからか、オータニのなせる技か、差程会場はザワつかない(むしろ静か)。急遽佐々木料理長がマイクを握り、それとなく釈明しつつユーモアとあの独特のキャラで場を盛り上げる。

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今回のテーマは「松葉蟹」。ダイニングの真ん中に特設台を設け、佐々木料理長本人が生きた松葉蟹を派手に捌くサービスタイムもある。では料理を待つ間に別のシャンパンを頂こう。リストから選んだのは「ドゥ・スーザ キュヴェ・レゼルヴ ブラン・ド・ブラン グラン・クリュ(Champagne de Sousa & Fils Cuvée Réserve Blanc de Blancs Grand Cru)」。
「ド・スーザ・エ・フィス」は家族経営のレコルタン・マニピュラン、現在3代目。アヴィーズを中心に、オジェ・メニル・クラマン・アイなどに合計畑12haを所有(古樹も多い)。1999年からビオディナミ実践中だ。畑にはアンモナイトが堆積している事から、2011年以降ラベルの「D」が化石モチーフになっている。

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この「レゼルヴ ブラン・ド・ブラン」は、2・3年の異なる葡萄をブレンドし、30%の リザーブ・ワイン.を加えて造られる。緑がかった黄金色が照明に美しい。ライム・グレープフルーツ・・ミネラルも感じる香り。厚みはないがかえって食前酒には良いかもしれない。
そこへやっと1品目の料理が運ばれて来た。本来なら先付の「小蕪焼いて いりからすみ」の予定だったが、間に合わず。慌てて用意された3品目のお向「ふくぶつ切り」からのスタートになる。「こうなったらワインを楽しむわよ~♪」と何故か妻のテンションが上がる(笑) 下関のフグを一口大にぶつ切りし、あん肝ペーストで頂く。ふく葱にちり酢かけ、角切りの白菜のアクセントが面白い。

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ここでついでに、リストにあったグラスの白ワイン「フランソワ・ラヴノー シャブリ プルミエ・クリュ フォレ(Francois Raveneau Chablis Premier Cru  Foret) 2009年」をお願いする。続いて1品目予定だった「小蕪焼いて いりからすみ」が登場だ。何とル・クルーゼ鍋に、京都美山の蕪と昆布出汁を入れて、オーブンで40分程かけて熱を入れたと言う。
表面は張りがあって、中はジンワリと水分になり消えていくほど柔らかい。オーブンらしい芯までホクホクな感じも冬らしい。上にたっぷりまぶされた「炒ったからすみ」の、塩気と芳ばしい香りがアクセントだ。確かに先付けでこれが出て来ると、客を一気に引き込めるだろう。そんな先付の次は、本来2品目の椀盛り「白味噌仕立て」が出ると思いきや、5品目の進め肴「香箱蟹 内子 冷製ビーフン」が運ばれると言う。

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これはまた大変だなと思って皿を良く見ると違う?!メニュー表には「香箱蟹」とあるが、納得行くものが手に入らなかったため、「車海老湯引き 炙りつぶ貝 黄身酢がけ」に変更したとの事だった。胡瓜・うど・牛蒡も添えられ、酸味と共にさっぱり頂く。こうなって来ると、もう料理に合わせるのを諦めて、飲みたいワインを飲みたい時にお願いすると言う感じになる(笑)
続いてやって来た料理は椀盛り、「白味噌仕立て 鯛揚げて」だ。蓮根餅揚げて・うぐいす菜・京人参、甘い白味噌に辛子を溶かして頂く。なるほどこれはいかにも京都らしい美味しさ。思い起こすのは京都ミシュラン3ツ星「京料理 なかむら」のスペシャリテ「白味噌雑煮」だ。ただ味はなかむらより軽やか。鯛の塩気とレンコンの細やかな食感と共に、身体を温めてくれる。

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ここで妻はピンクが飲みたいと言うので、リストにあった「ローラン・ペリエ キュヴェ・ロゼ・ブリュット(Laurent Perrier Cuvee Rose Brut)」をお願いする。1812年創業のシャンパーニュ・ハウス「ローラン・ペリエ」。そう言えば年末家で開けた「ローラン・ペリエ グラン・キュヴェ アレクサンドラ ロゼ 2004」がお気に入りだが、この「ロゼ・ブリュット」もいつもながら高品質。
ウィリアム王子の結婚式の夜、晩餐会・デザート時にも出された。妻は濃いオレンジがかったピンク(セニエ法)が揺れるグラスを照明にかざして、甘い香り漂うロマンティックなロゼに嬉しそうだった。そして私はリストの中から「セドリック・ブシャール ローズ・ド・ジャンヌ コート・ド・ヴァル・ヴィレーヌ ブラン・ド・ノワール(Cedric Bouchard Roses de Jeanne Cote de Val Vilaine Blanc de Noirs)」をお願いする。

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セドリック・ブシャールが造る「ローズ・ド・ジャンヌ」と言えばこだわりの少量生産、なかなか手に入らない。うっすらと淡い色、酸味の感じる赤い果実・・口に含むとベジタブルのニュアンスから旨味の余韻がかすかに残る。ブラン・ド・ノワールながら女性っぽい優しさが、気分を癒してくれた。次は温菜の「ふぐ白子 リゾット風 もやし入れて トリュフの香りで」がやって来た。
目の前で「フランス産黒トリュフ」が削られて完成する。火が多めに入った感のあるふぐ白子のフリット。白子好きの妻には揚げ油の臭いが気になったらしい。下にはもち米に白子のペーストが掛けてある。見た目がイタリアンなのだが、口に含むと薄味で和食なのに驚く。フレンチ・イタリアン好きからすると少し厳しいか。

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さていよいよ今宵のメインと言う焼き物、「松葉蟹 炭火焼」のパフォーマンスが開始する。昨年から蟹が不良でロシアからも止まってると言う。今回用意されたのは新潟産だ。ダイニング真ん中のステージに大きな蟹が沢山運ばれた後、佐々木料理長が大きな音を立てながら包丁を入れていく。ガンガンと蟹の脚をぶった切っていくので、辺りには破片も飛び散り、聞けば脚自体も飛んでいたと言うから派手な演出だ(笑)
妻がカメラを持ってステージに近づくと、佐々木料理長は満面の笑みでVサインで応じてくれる(ブレてて披露できないのが残念)。胴体を蒸しあげた後、オープンキッチンで炭火焼にして2種が供された。よってここでお願いしたのはリストの中から「アンリ・ジロー フュ・ド・シェーヌ アイ・グラン・クリュ マルチビンテージ(Henri Giraud Ay Grand Cru Fut de Chene Multi Vintage)」。

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前回記事でも登場したが、1625年からアイ村のグラン・クリュでシャンパーニュ造りを続ける老舗シャンパーニュ・メゾン「アンリ・ジロー」。かつてのトップ・キュヴェ「フュ・ド・シェーヌ」が今の「マルチ・ヴィンテージ」(2002年以降のミレジメは新トップ・キュヴェとして「アルゴンヌ」に)。最近は積極的に売られ、レストラン・ホテルでも目にすることが多くなった。
この「マルチ・ヴィンテージ」はピノ・ノワール70~75%、シャルドネ25~30%、オーク樽で一次発酵12ヶ月熟成、6年瓶内熟成。これは「MV07」なので、「2007年」をベースに「2004年」「2005年」「2006年」のリザーヴワインがブレンドされている。

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シックな黒ボトルから注がれたそれは濃いゴールド。洋梨・摩り下ろして時間の経ったリンゴ・・甘露・シェリー・・アンリ・ジローらしい香りと旨みを、蟹の甘さと一緒にじっくり楽しんだ。妻もやはりこれが一番進んでいた。さぁ次の料理は鉢物の「鰤 大根」だ。青葱早煮と針柚子が添えられ、振られた黒七味が京料理らしい。
この大根は、前半に出て来た焼いた小蕪と同じ要領で作られ、オーブンでの火入れとなる。実はこの時点で既にお腹一杯(飲み過ぎている事もある 笑)だったのだが、前もって予約しておいたオプション、限定100食と言うスペシャル料理(コース28000円に13000円の追加)がこの後登場する事になる。その「おすすめの逸品」と言うのは「ふかひれステーキ友地あんかけ」。

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 京都のお店でももちろん人気料理(スペシャリテ)だ。何とも大きな皿になみなみとスープ、大きなフカヒレが浮かんでいて圧巻だ。妻は驚いて「え?!これ一人分?!」と目を丸くしている。所謂ふかひれソテー、大きく厚みあるフカヒレの表面に、フライパンで付けられた焦げ目が良い。この友地あんは、すっぽんのダシで作られているとの事。
サーブしてくれた女性スタッフ曰く、「コラーゲン(フカヒレ)をコラーゲン(スッポン)で煮ている訳ですから、もう明日が楽しみで仕方ないですよ!」と。お腹一杯で食べれるか心配していた妻も「やだ~外せない!これ以上の美肌対策はないわ♪」と目を輝かせつつ食している。小松菜も添えられ、生姜も効いている。

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 かなりの量ではあるが、味わい深くとろみも手伝ってスルスルと頂ける。ゼラチンの食感がはっきりした食べ応えあるフカヒレは、なかなか美味であった。妻は翌日の肌効果を気に入って、また食べたいとしばらく言っていた。身体も芯からポカポカに温まった所で、食事の「蟹焼御飯」と「京漬物」が運ばれる。これもステージによるパフォーマンスで、佐々木料理長は「どんどんお代わりして下さいよ~」と声を上げている。
先程の蟹味噌が沢山入った美味しい御飯ではあったが、さすがに私達は満腹で、一口で断念した(周りはご年配の方々でもお代わりしていた)。デザートは今回もホテル内「パティスリーSATSUKI」からの物。まずは小さなカップに生クリームが蕩ける「ホットチョコレート」。そして最近滅多に見ない「ベイクドアラスカ」が登場する。店内の照明が少し落とされていたのはこの為だったか。

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メレンゲから青い炎が上がるロマンティックな「ベイクドアラスカ」とは、バブル時代のクリスマスを彷彿とさせると妻(笑) バニラアイスクリームにイタリアンメレンゲ、表面にはブランデーが掛けてある。炎が消えた後の焦げ目が丁度良い感じだ。ここで私は食後酒的に、リストの中から赤ワインをチョイスする、ブルゴーニュ「ドゥ・ラ・ヴジュレ シャンボール・ミュジニー(de la Vougeraie Chambolle Musigny) 2011年」だ。
1999年にネゴシアンのジャン‐クロード・ボワセが設立したドメーヌ。優しい赤い果実・スパイス・獣っぽい香り。若く熟成感や凝縮感はないがシャンボール・ミュジニーらしいチャーミングな酸が食後に良かった。最後もリストの中から、我が家の食後酒定番「シャトー・イケム(Chateau d’Yquem) 2011年」をチョイスしてじっくり味わう。美しく揺れる甘い黄金色が心地よい締めとなった。

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 「やっぱりアウェイだと佐々木さんでも大変よね」と言いながらもすっかりご機嫌な妻。京都の店で繰り広げられる「祇園さゝ木劇場」とはいかずとも、私達にとってはワインも豊富で楽しいデートな時間を過ごせた。帰りは次回行われるグルメイベントの準備で、イタリアの「イル・サン・ピエトロ・ディ・ポジターノ」に滞在した小山典昭副支配人から色々楽しい話を聞かせてもらい、満足な気分で「ベッラ・ヴィスタ」を後にした。