この数日、寒波による積雪で全国どこもかなり冷え込んでいる。暖冬で年明けまで何となく穏やかな日を過ごしていただけに、この寒さは身に染みる。それでも年末年始はここぞと日本文化を楽しみたいので、寒さが苦手でも日本らしい雪の情緒に心惹かれる。そうなるとやはり京都、昨日からかなり降り積もっている様だが、雪化粧は更に古都を美しくするだろう。
そうだ、鞍馬山間部にある「貴船神社」では、今年も積雪日限定で雪見ライトアップが開催されている。と言う訳で先月伺った京都フレンチ「レストラン モトイ(Restaurant MOTOI)」での話をしよう。町屋が並び情緒ある中京区富小路通、二条下ルと元々は呉服屋だったと言う大きな屋敷(180坪)が見えてくる。揺れる白い暖簾が目印だ。

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門をくぐり石のアプローチを進み引き戸を入ると、歴史ある日本家屋を再生したモダンで落ち着きある素敵な空間が広がる。「京都のフレンチ」はこうであって欲しいと思える、我が家お気に入りのレストランだ。高天井のメインダイニングには大きなこの日もフラワーアレンジメントが華やか。白いテーブルクロスは余裕ある配置、奥には手入れされた日本庭園が浮かびあがる。
私達はいつもの様に、ワインセラー前の半個室で頂く。テーブルにセッティングされているのはシックな「伊賀焼(土楽窯)」皿。まずはシャンパーニュで乾杯しよう。こちらはワインラヴァーのスタッフが多いので、色々話しながらワインを選ぶのも楽しみの一つだ。セラーには300種500本以上、リストも工夫したラインナップ。

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そして今回、中村尚一郎ソムリエが勧めてくれたのは「フィリポナ レゼルヴ・ミレジメ・ブリュット・ロング・ヴィエイユスマン(Philipponnat Reserve Millesime Brut Long Vieillissement) 1982年」。1522年にシャンパーニュ地方アイ村に根を下ろしたフィリポナ家。畑を購入したのは1935年と言われている。
シャンパーニュ地方では珍しい単一畑の一つで、シャンパーニュの「ロマネ・コンティ」とも言われている。現在所有畑は12ha。我が家でも「クロ・デ・ゴワセ(5.5ha)」を開ける事もあるが、今回のはなかなか珍しいビンテージ・シャンパーニュだ。澱抜きまでの期間を長くとる事が特徴的(このデゴルジュマンは2010年1月)。

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この「1982年」は収穫量が多かったらしく、グレートビンテージに匹敵する上品で優雅な味わい。ピノ・ノワール70%、シャルドネ30%、ドザージュ4.5g/l。美しい細工のシャンパングラス「ラリック&ジェームス・サックリング コラボレーション 100ポイント」に注がれると、細かやかな泡がふんわり立ち上がり美しく黄金色に煌めく。
メイプルシロップ・キャラメル・モカ・甘露飴・・・甘く芳ばしい香りの印象よりも味わいはドライ。ゴールドとグリーンの華やかなラベルに妻は「フェスティブシーズンにピッタリだわ♪」と嬉しそうに、「ヘーゼルナッツのカラメリゼ マドラス風味」と共に楽しんでいた。さて楽しみな料理は、シェフお任せコース「旬のコレクション(Collectijon de saison)」。

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中華の技法も学んだ前田元シェフの、斬新ながらも繊細な京都らしいフレンチが頂ける。運ばれたアミューズは、大きな貝殻に乗った「仙鳳趾の牡蠣のポッシェ」。スダチの皮・果汁を使ったクリームと魚のジュレで挟み込んだ牡蠣は、20分ほどポシェしたものだ。北海道・釧路町の厚岸湾で獲れる仙鳳趾産牡蠣と言えば、殻に対して身が大ぶりで締まっているが特徴的。
クリーミーでコクある風味と、海のミネラル感が口中にパッと広がる。余韻には牡蠣に振ったガラムマサラが印象に残った。前田シェフらしい何とも面白いアクセントに引き込まれていく。ここでパンが2種運ばれる。ポルトガルのエキストラバージンオリーブオイル「カーザ・アナディア プライベートコレクション」や、表面に「新潟の岩海苔」粉末をまぶしたフランス産バターも添えられる。

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妻はソフトタイプのパンがお気に入りで、珍しく追加したりもする。次のプレートは「鰤とポルチーニのムースリーヌ」。霜降りした北海道産鰤に、ポルチーニのムースリーヌを合わせた一品だ。松の実とマッシュルームのチップスも添えている。赤い紅麹ソースが目にも味にも鮮やかに映える。ソースの酸味とチップスの風味と一緒に鰤を頂くと、見事にフレンチの美味しさに着地する。
「この辺りのバランス感覚が前田シェフは抜群ね♪」と感心しきりの妻。そこへ礼儀正しい今田剛之支配人が、白い手袋でカトラリー(サンボネ)をセッテイングに来た。妻は「わ~い白い手袋好き~」と何故か今田支配人にポージングをねだる(笑) 続くプレートは「雲子のムニエル 菊菜とリゾット」。雲子とリゾットが盛られた皿に、白手袋で「春菊(菊菜)と鶏のブイヨンを合わせたスープ」を注いで完成だ。

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茶葉の様な独特の旨味を感じるスープが何とも美味。腐乳のリゾットがまた前田シェフらしい。菊菜の苦味がエッジを効かせて和の美味しさも表現した一皿。聞けば今井支配人も前田シェフと共に、日曜の朝市に顔を出すようにしてると言う。毎週登場する様々な京野菜は勉強にもなるし何より楽しいとの事。そんな話の中、続いて運ばれたのは「メダイのポワレ 静原の落花生」。
バニラの甘い香りを纏ったメダイの雪景色のような風情も食欲をそそる。バニラのオイルと魚の出汁のソースのハーモニーが何とも上手い。落花生のピューレも面白い発想だ。次に来るメインの肉が「鴨」と言う事で、思わずワインリストのブルゴーニュに目を通す。こちらのスタッフは国内外問わず、ワイン関連の自主研修も欠かさない。営業終了後に夜通し車を運転して、皆で山梨のワイナリーに行ったりもする。

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 そんな頼もしい話で盛り上がり、グラスではなくついつい赤もボトルで開ける事に(もうこうなるとランチではない 笑) チョイスしたのは中村ソムリエお勧めの「グロ・フレール・エ・スール リシュブール グラン・クリュ(Gros Frère et Soeur Richebourg) 2007年」。1800年代から続く名門グロ家。
時代と共に分割されているが、ラベルに「黄金の王杯」が輝く「グロ・フレール・エ・スール」は、ジャン・グロの次男ベルナール(Bernard Gros)が跡を継ぐ。ボーヌ・ロマネ村のグラン・クリュである「リシュブール」。8.03haのうち「ロマネ・コンティ」3.51ha、「ルロワ」0.78ha、そして「グロ」0.69haだ。綺麗な酸味が直線的に伸びる。赤い果実のピュアさとともに、草のニュアンス、梅・・

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 出汁っぽい旨みが、果実の甘さを伴った酸と共に余韻に残る。まだ開ききれてないが、軽やかで可憐な味わいだ。そんな中、シェフ自ら研いでいると言うカラフルな「フォルジュ・ドゥ・ライヨール ラギオール」ナイフがやってきた。数本並ぶ中から今日も好きな色を選ぶ。そして面白い感触のプレート(森山硝子)で「新潟産尾長鴨のロティ」が登場する。
目の前でサルミソースが注がれる。中村ソムリエは新潟での網取り猟と鉄砲撃ちの両方に立ち会ったとの事!網取り鴨の腿肉は炭火で、胸肉はじっくりとロティした。相変わらず綺麗な火入れだ。五香粉もアクセントにしたサルミソースは力強く、鴨肉の野性味を引き立てる。シェフ自ら摘んで来るクレソンや信州産香茸も味わいに変化を添えて、「リシュブール」と共にじっくり味わえた。

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これまでもそうだったが、組み合わせの妙に加えて、素材自体の迫力も感じる素晴らしいコースだった。そしてデセールもこちらの楽しみの一つ。まずは「アマンドと梅酒のグラニテ」だ。アーモンドのアイスクリームの濃厚さに、すっきりしたグラニテがほんのり梅酒が香るところが良い。2品目は「葡萄のヴェリーヌ」。フロマージュブランのムースの下には赤ワインのジュレが潜んでいる。
心地良い爽やかさと甘さがコースの最後、このタイミングにピタリとはまる。そして3品目が山椒の葉がトッピングされた「モンブラン」だ。中には香ばしく焼いたアーモンドのメレンゲ、山椒のクリーム、丹波栗の赤ワイン煮が入ってる。これは山椒の塩梅が絶妙だ。添えられているのは焼栗のアイスクリーム、ライン状に赤ワインのソース。

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そんな京都らしい味わい深いデザートに合わせて、残して置いた「フィリポナ」を田崎真也ソムリエデザインのチューリップ型シャンパングラス(木村硝子)で味わう。最後は京都ならではのミニャルディーズ「七味入りフィナンシェ」「州浜」「大徳寺納豆入りマカロン」などと「アールグレイ」「究極にこだわったブレンドコーヒー」で締めくくった。このコーヒーはどんなに人数が多くても、丁寧にドリップして入れているそうだ。
今回もまたランチとは思えない完成度の高いコース。しっかりワインも楽しむ事が出来て楽しい時間を過ごせた。スタッフの向上心が、料理はもちろんワインの品揃え、空間の全てに現れていて通い甲斐のあるレストランだ。午後の光眩しい中、シェフ達に見送られながら車に乗り込み店を後にする。妻は車中早くも「今度はディナーをしっかり満喫したいな♪」と予定を模索していた(笑) 次回も楽しみだ。

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