まさに師走師走の慌ただしさ、気が付けば2015年もあと数日。そんな時に限って急に思い立つ緊急企画(妻はバタバタと忙しく遠くで「手伝って~」と言っているが 笑)。この1年の間に我が家が伺ったレストランの中で、特に印象に残ったプレートを振り返る。そうだ、我が家的「理想のコース仕立て」にしてみよう?!あり得ない幻のコース料理だ。
今年は何と言ってもまずは、1月9日から2月14日まで「マンダリンオリエンタル東京」に期間限定で出店した「ノーマ・ジャパン(noma tokyo)」の衝撃的なディナーだろう。デンマークのレストラン「ノーマ(noma)」は、英「Restaurant」誌の「世界のベストレストラン50(The World’s 50 Best Restaurants)」で、過去5年間で4度世界1位に輝く。2014年は一昨年の2位から1位に返り咲いた。

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当然世界中から人々が訪れるわけでウェイテイングリストは5万人超とも言われ、かなり予約は難しい。コペンハーゲン本店以外の初営業が東京。本店を休業しレネ・レゼピ(Rene Redzepi)シェフとスタッフ全員が移動して来た。ちなみに2016年1月からは東京に続いてオーストラリアで10週間限定で開業と、「ノーマ」は更にチャレンジを続けている。
美味しいと言うより面白く刺激的だった「ノーマ・ジャパン」から、「2015年妄想スペシャルコース」のアミューズをチョイス。やはり印象深い「長野の森香るボタンエビ」だろう。生の北海道産ボタン海老の上に数匹の蟻が乗ったプレゼンテーション(ノーマスタッフ達が自ら長野で捕獲したと言う蟻)。「ants」はノーマの特徴とは聞いていたが、直に目にすると流石に驚いた。

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スタッフが「いや~時々蟻が動くんで・・」と言うや否やボタン海老の触角がふらりと動いたので、考える暇もなく口に運んだ。ボタン海老のネットリした甘さに続いて、蟻の何とも言えない風味と酸味が残る。我が家の2015年筆頭アミューズには、挨拶代わりのこの刺激的な一品にしよう。その時これに合わせられたグラスシャンパーニュは「ジェローム・プレヴォー ラ・クロズリー レ・ベギン(Jerome Prevost la Closerie les Beguines) 2010年」。
ジェローム・プレヴォーと言えばフランス北西のグー村、セロスの愛弟子だ。ビオディナミの独特の香りが面白い調和を見せてくれた。それでは前菜に行こう、1品目は我が家お馴染みの恵比寿「シャトーレストラン ジョエル・ロブション(Chateau Restaurant Joel Robuchon)」から。7月にロブション初となる野菜づくしの「フード&ライフ ガラディナー」が開催された。1階「ラ ターブル ドゥ ジョエル・ロブション(LA TABLE de Joel Robuchon)」でのガラ開催自体も初だ。

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70歳を超えたジョエル・ロブション自身が、医学博士ナディア・ヴォルフ女史のアドバイスで体調が良くなった事から、共著「Joel Robuchon Food and Life」も出版。そんな体験も通じて長年構想していた「ベジタリアン」や「グルテンフリー」を意識したディナーコースのお披露目と言う訳だ。
食事療法によって開発された8種類のプレートは「トマト」「ビーツ」「アスパラガス」「アーティーチョーク」などの野菜で構成され、魚や肉は提供されない。中でも妻がそのビジュアルの美しさに、「うわぁ~可愛い♪」と思わず声をあげた前菜が「トマト 爽やかな酸味のボンボン 透明なジュレとのハーモニー」。マイクロトマトやトマトの種で描写されて華やか。

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底に敷かれた透明なジュレもトマトだ。バジルの葉も乗せられた真っ赤なプチトマトには、トマトパウダーが振られている細かさ。口に含むとパッと中のガスパチョが弾け、奥深い甘さや旨味に加えてふんわり酸の香りに満たされる。そんなピュアで爽やかなプレートを、アミューズ「蟻」の口直し的(? 笑)な前菜としたい。
ちなみにその日開けたボトルは「クリュッグ クロ・デュ・メニル(Krug Clos du Mesnil Brut Blanc de Blancs Vintage) 2000年」。キラキラ黄金の泡、洋ナシ・アプリコット・ビネガー・摩り下ろしたリンゴ・・。かなり酸味を感じるところから、妻は「敢えてのヘルシービネガードリンクね!」と妙な納得をしていた。

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信国武洋シェフソムリエ曰く「3ヶ月前に開けた時は閉じ気味でしたが、今日のはかなり開いてます」と。そんな貴重な1本をゆっくり味わった。と言う事で、続く前菜2品からはフレンチらしい世界を展開しよう。佐藤伸一シェフ率いるパリ「パッサージュ サンカント トロワ(Restaurant Passage 53)」から。
開業わずか半年で1ツ星、その1年後に2ツ星を獲得し、現在5年連続2ツ星に輝く話題のレストランだ。佐藤シェフはパリ「アストランス」「ピエール・ガニェール」、スペイン「ムガリッツ」を経て、有名肉屋「ユーゴ・デノワイエ(Desnoyer)」をスポンサーに2009に開業。現在はその「デノワイエ」子息ギヨーム・ゲジュ氏と共同経営となっている。

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今初夏、パリの店を1週間クローズしスタッフを率いて来日。東京で初となるフェアを「ホテルニューオータニ東京」で開催した。私達は基本のコースに加え事前予約していた100食限定のスペシャリテ「Caviar ソローニュ産インペリアルキャビアとジャガイモのニョッキ ピエモンテ産ヘーゼルナッツとマスカルポーネのムース」も頂く事が出来た。と言う訳でこれが「妄想メニュー」前菜2品目。
何と言ってもコンモリと盛られた迫力のキャビア18g(本店では何と25g)。ロワール地方ソローニュ産の淡水で育ち、収穫後すぐに密閉されているので鮮度が格段に良い。「インカの目覚めのニョッキ」のネットリ感とキャビアのネットリ感、そして澄ましバターの風味に塩気。それが微妙な温度差を保ちながら口の中で渾然一体となる。

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上質のキャビアが持つヘーゼルナッツ香との繋ぎも考えられた完成度の極めて高いプレートだった。実は佐藤シェフのスペシャリテ「Calamar イカとカリフラワーの白いお皿」も、甲乙つけ難く悩んだ。カリフラワーの様々な食感とまろやかさ、そしてイカの香りと甘みが絶妙なバランスが印象的だった・・
が、妻が「私はキャビア」と譲らず結果こう決定する。ちなみにこれらに合わせたボトルは「サロン ブラン・ド・ブラン ル・メニル ブリュット(Salon Blanc de Blancs Le Mesnil Brut) 1996年」。これがまた飲み頃で、とても良い状態に満足した。さぁ前半盛り上がってきたところで、前菜3品目はつい先日の銀座「レストラン エスキス(Restaurant ESqUISSE)」から。

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選んだのは「鱈の白子のムニエル」だ。白い皿に「パセリソース」の緑が映える。出来立て熱々の白子、そのホクホクの食感が何とも嬉しい。そこから青森の黒にんにくと黒カルダモンを合わせたペーストの風味がすっと立ち上がる。蕩ける濃厚な白子の旨味にパセリの青さと苦みが絡む絶妙さ。そしてキャベツのシャキシャキ感も追いかけてくる。
白子の美味しさの周りに様々な要素が絡んで、白子フリークの妻も「リオネルのバランス感覚はスゴイ」と脱帽だった。これに合わせられたのは若林英司ソムリエチョイスの白ワイングラス、コート・ド・ボーヌ「ポール・ペルノ・エ・セ・フィス ピュリニー・モンラッシェ プルミエ・クリュ フォラティエール(Paul Pernot et ses Fils Puligny-Montrachet 1er Cru Les Folatières) 1995年」。

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これがまたかなり良かった。美しく濃い黄金色が魅惑的に煌めく。深い蜜・バター、熟成しながらもピュアな透明感が際立ち、ミネラルの凜とした存在感に思わず目を合わせる味わいを楽しんだ。そうだ、夏であればここの前菜3品目は京都フレンチ「レストラン モトイ(Restaurant MOTOI)」からでもあり。京都ならではの歴史感じる日本家屋で頂いた「すっぽんのパネ」。
4時間かけて作ったすっぽんの煮こごりの周りに、セモリナ粉をまぶし香ばしく焼き上げたものだ。凝縮したすっぽんの風味が口中にパッと放射線状に広がる。すっぽんの出汁で炊いたパスタを敷きつつ、上にはほんの少し山葵を乗せる・・見事に京とフレンチが繋がる。「すっぽん」を作り続けている前田元シェフの自信作と言う事だけある一品であった。

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これと共に味わったのは、「テタンジェ コント・ドゥ・シャンパーニュ(Taittinger Comte de Champagne Blanc de Blancs) 2006年」。コート・デ・ブラン地区最上畑のシャルドネのみを使用するピュアな味わいが、「すっぽんのパネ」と爽やかに楽しめた。次は魚料理1品目、晩夏に新宿「キュイジーヌ[s] ミッシェル・トロワグロ(Cuisine[s] Michel Troisgros)」で行われた、
エグゼクティブ・シェフ ギヨーム・ブラカヴァル(Guillaume Bracaval)氏と友人ダヴィッド・トゥタン(DavidToutain)氏のコラボレーション・ディナーから。パリ7区にオープンした「レストラン ダヴィッド・トゥタン(Restaurant David Toutain)」は、わずか1年でミシュラン1ツ星を獲得。ゴー・ミヨー「Grand de demain de l’année」に選ばれるなど今まさに注目のシェフだ。

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明るい人柄も印象的だった。登場したのは、ダヴィッド氏がフランスで提供して評判の高いと言う、噂の一皿「トリュイット 味噌のコンフィ、スリーズ/アマンド」。真空調理した静岡産サクラマスに合わせるのは「赤味噌のマヨネーズソース」。ムース状のソースの濃さが全体の味をマスキングするが、生のアマンドやチェリーのアクセントがピタリとはまっている。
ベルベーヌのオイルも爽やかさを加える。美しいデザインだけでなく味わいに繋がり、しかもバランスが取れて美味であった。ちなみにこの時は、グラスでシャンパンと白を楽しみ、赤ワインはボトルで「アルマン・ルソー シャンベルタン(Armand Rousseau Chambertin) 2011年」を開けていた。

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さぁポワソンの締めはやはり地元九州から。1953年開業の福岡フレンチ「レストラン 花の木」、2月全館リニューアルオープンした。コルディアンバージュ仕込みの寺田敏広シェフの料理は、緻密な発想力が特徴的だが、リニューアル後はより素材を全面に押し出すなど変化を感じた。そこで、思わず「うわっスゴイね!」と妻が圧倒された「玄海産アワビのステーキ」をチョイス。
何とも食べ応えあるふんわりした厚み、そして旨味、磯の香だ。「アワビの肝」のなめらかなソースと、ピンク色が綺麗な「紅蓼の赤いソース」が敷かれ、その酸味と草風味が複合的に絡みあって、満足度の高い一皿だった。これにはちょうど飲み頃で特徴のイースト香もかなり柔らかくなっていた「コント・ドゥ・シャンパーニュ」を合わせた。

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次のヴィアンドは、我が家的には鶏・牛肉以外のジビエだったり家禽をチョイスするのが定番なのだが、今年は偶然にも鶏料理が秀逸豊作で、今回の妄想ベストメニューにもランクイン。まず2015年最も注目した九州のフレンチシェフ、4月から「オーグードゥジュール メルヴェイユ 博多」の料理長に就任した小岸明寛シェフの一皿。
佐賀県出身の彼は旧「タイユヴァン・ロブション(現ジョエル・ロブション」、パリ「アラン・デュカス オ プラザ・アテネ」「ピエール・ガニェール」、スペイン「ムガリッツ」での修行歴があり、北海道「ミシェル・ブラス トーヤ ジャポン」を経て「オーグードゥジュール メルヴェイユ」入り。「RED U-35」第1回大会準グランプリ・ゴールドエッグ受賞者でもある。そんな小岸シェフの「ブレス鶏のヴェッシー包み」が今年のメインだ。

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運ばれてきたのはびっくりの風船!?「今日は古典を楽しんでもらいたいと思います」と小岸シェフ。膨らんだ「豚の膀胱」の中にはじんわりと熱が入った「ブレス鶏」。取り分けられたそれは、何ともしっとりとした艶めかしい食感だ。ソースは「アルビュフェラソース」。鶏のブイヨンにポルト酒・マデラ酒・コニャック・フォワグラ・バターも使った奥深い味わい。
「アラン・シャペル」がパプリカを入れないアルビュフェラソースを作り、アラン・デュカスもそれを引き継いだ。よって、デュカスで修行した小岸シェフもその系統で、このソースにはパプリカは入っていない。ついでに余談だが、来年春ベルサイユ宮殿内に、アラン・デュカスがカフェをオープンするらしい。彼は宮殿の庭園で栽培される野菜などを使っていたので納得。

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話は戻ってその「ブレス鶏」は、とても濃厚ながら洗練された味わい。クラシックの手法をふんだんに使いながら、現代的な小岸シェフらしいセンスある味わいに満足した。そして実はもう一品鶏料理がある。秋の「ジョエル・ロブション来日特別ガラディナー 白トリュフ祭」でのメイン、「奥州いわいどり 胸肉をしっとり加熱し、なめらかなソースをナッペし、松茸のグリエとハーブオイル、ジュを添えて」だ。
ふんわり柔らかく旨味も溢れてかなり美味、とても素晴らしかった。松茸の香ばしさに加えて白トリュフの濃厚さが立体的・・思わずワインも進んだ。これは最高級白トリュフがあっての、この日限りのスペシャル料理(幻)なので、その時期限定のメインであればこれだろう。拳より大きな白トリュフ塊の中心部、色づく芯の部分は甘い香りが際立ち明らかに濃い。

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いつもながら「ジョエル・ロブション」の白トリュフの印象は別格である。この日開けたのは妻の好きな「シャトー・ラトゥール(Château Latour) 1966年」。飲み干した後に微かな旨味が酸味と共に口元に残り、そこからチャーミングな酸味が余韻を押し広げる。何とも美しい熟成感だが、まだどこか力強さも感じる。
十分飲み頃に達しているが、まだ熟成していきそうな素晴らしい味わいを、完成度の高いプレートと共に堪能した。ついでにこちらも余談で、ロブション氏は故郷のヴィエンヌ・モンモリヨン(11世紀の修道院)に、大規模な料理大学を作るようだ。行きつくところはやはり育成だろうか。

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さてフロマージュは、20種類が並ぶ「ジョエル・ロブション」のチーズワゴンと迷ったが、既にこの「妄想スペシャルコース」は量が多くてお腹一杯過ぎるとの事から(笑)、再び銀座「エスキス」から選んだ。妻がかなり気に入っていて、いつももう一個欲しがる「グリエールチーズ」「マスカルポーネ」「ブリー・ド・モー」を3層にしたオリジナルな一品。
間には、昆布と刻んだ黒トリュフを混ぜたものが挟んである。表面には日本酒を使ったソースを塗ってネットリとした食感を出している。添えられた塩に少し付けて、鮨のように手で頂く趣向だ。さて、デセールも盛りだくさんに色々と楽しめた1年。想い出すのにも苦労したが、ここは妻の意見を尊重する事に。まずは前菜時もランクインしたダヴィット・トゥタン氏の「フレーズシュクレ、リュバーブとトンカのテクスチャー」。

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まるで天使の羽が刺さった様な、可愛い赤とピンクの盛り付けが印象的。苺のアイスの下にもフレッシュな苺が隠れている。リュバーブの食感やトンカ豆のムースの芳ばしい香りがアクセントだ。ライムの香りを感じるメレンゲの食感と共に爽やかに頂けた。そして2品目のデザートは、チョコレート好きの妻にはたまらない「チョコレートスープ パッションプルーツとデーツ」。
六本木けやき坂通りにシックに浮かぶ「JG ジャン-ジョルジュ 東京(JG JEAN-GEORGES TOKYO)」から。目の前で温かいショコラソースがたっぷり注がれ始めると、妻が「キャーどうしよう!」歓喜の声をあげた(笑) 並んでいる「パッションフルーツのギモーブ」「チョコレートのクロッカン」「ユズのセミブレット」「キャラメルのアイスクリーム」「チョコレートのキャビア」を、チョコレートソースが少しずつ溶かして行く楽しさと美味しさにあふれるプレートだった。

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そしてプティフールと言えば、東京芝公園近くの洋館「レストラン クレッセント」だろう。クレッセント名物、スイス「ジラルデ」仕込みの伝統菓子「タルト・ヴォードワーズ」もだが、やはり毎回焼き立てアツアツの「ミニマドレーヌ」が素晴らしい。ふんわりサクサク、スコットランド「ヘザーのハチミツ」の蕩ける香りがふんわり立ち上がる。
それを頂く時は、既にお腹一杯で全て食す事が出来ないのが残念だが、必ず焼きたてを香りと共に提供し最後まで手を抜かない所に感心する。そして開発に苦労した氷砂糖の「ウイスキーボンボン」は食後酒いらずの美味しさだ。その上で更に運ばれるプティフールとハーブティーは、言わずもがな「ジョエル・ロブション」の、豪華オブジェ風「キラキラスイーツワゴン」とフレッシュ薫り高い「生ハーブワゴン」に敵う物なしだろう。

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そんな訳で、今年1年を振り返っての緊急選出の秀逸なプレートをコース仕立てに組み立てた。季節やメリハリなどは度外視した剛速球のような今回の「妄想コース」、何より妻と記憶を紐解く楽しい時間になった。来年もこの妄想企画が出来ると良いね~と、新たな美食との出会いに思いをはせる穏やかな年末となった。