クリスマスイルミネーションが輝く銀座。この夜は六本木で行われた「ルイ・ヴィトン 2016年クルーズ・コレクション(Louis Vuitton Cruise 2016 )」プレヴューショーの後に訪れた。向かうは銀座並木通り、ロイヤルクリスタル銀座の最上階にある「レストラン エスキス(Restaurant ESqUISSE)」。今年は春に訪れた以来、我が家的には銀座でお気に入りのフレンチと言えばここだ。
そうそうつい先日発表された「ミシュランガイド東京2016」でも、オープン以来4年連続で2ツ星を獲得している。壁に「カルティエ」が煌めく1階エントランスは、ベージュの大理石が全面に広がり、大きなフラワーアレンジメントも華やか。9階エレベーターが開くと、いきなり木の温もり溢れる「エスキス」のレセプションが現れる。名前を告げると、支配人の若林英司ソムリエが出迎えに来てくれる。

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寄木張りフローリングのダイニングは、都会的で柔らかな空間。天井梁の添木、木製チェスト、窓下に沿う木枠、ナチェラルさが近代建築の中に温かみをもって融合する。案内されたのは窓際席、包み込む様な厚みの椅子も座り心地が良い。テーブルには今回も、リオネル・ベカ(Lionel Beccat)シェフのアートメッセージ(テーマ)が置かれ、揺れるキャンドルの横にはシンボル「立体リンゴ」も輝く。
若林支配人と近況を話しつつ、まずはシャンパーニュで乾杯だ。ここ「エスキス」ではコースにグラス・シャンパーニュが付いている。よってワインに詳しくない人でも悩まずスムーズにスタート出来るだろう。しかもアミューズとの相性や季節感を考えられているので、ワイン好きも納得のセレクト。木村硝子の美しい手吹きグラスに注がれた今宵のセレクトは「マルゲ・ペール・エ・フィス ブリュット・レゼルヴ グラン・クリュ(Marguet Pere & Fils Brut Reserve Grand Cru)」。

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葡萄栽培は1870年から、シャンパンの販売は1905年と言う「マルゲ」、現在は若き5代目ブノワ・マルゲ(Benoît Marguet)氏がエノロジストとして有名なエルヴェ・ジェスタンの指導の下取り仕切る。2009年からビオディナミ農法に移行し、2010年からは馬で耕作。「アンボネ」「ブジィ」「マイイ・ヴィラージュ」の畑から平均樹齢38年の、ピノ・ノワール50%・シャルドネ50%、ドザージュ8.5g/l。
ナッツの様な豊かな香りに、綺麗な酸味の余韻・・滑らかでいて深みある味わいだ。ソテーしたリンゴの様な香りも感じる。皿の使い方も面白いアミューズの、フォワグラのテリーヌを包み込んだ薄い洋梨の食感、杏のパウダーの風味と共に楽しむ。さぁスタートは、モダンなカマチ陶舗の器(有田焼)で出て来た「栗のフラン」。上にはシーアスパラガス、ディルのクリーム、焼き栗、生ウニが散りばめて。

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 それらが舌の上で渾然一体となる。秋を感じる優しくも美味なリオネルシェフらしい前菜。お馴染みのE文字ゲランド塩とふんわりバター・パンも運ばれる。続いての料理は「2種類のフランス産キノコ 蓮根とほうれん草のソース」。これに合わせて若林ソムリエが出してくれた白ワインのグラスがブルゴーニュのコート・ド・ボーヌ地区、
「ポール・ペルノ・エ・セ・フィス ピュリニー・モンラッシェ プルミエ・クリュ フォラティエール(Paul Pernot et ses Fils Puligny-Montrachet 1er Cru Les Folatières) 1995年」。1890年創業の「ポール・ペルノ」。所有畑ピュリニー1級の中で、3.1haの「フォラティエール」は一番大きい区画。何とも美しく濃い黄金色が魅惑的に煌めく。

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深い蜜・バター、熟成しながらもピュアな透明感が際立ち、ミネラルの凜とした存在感に思わず目を合わせる。そこにやって来た黒いプレートに緑のソースが映える料理は、セミドライしたキノコを蓮根とソテーし、ヘーゼルナッツを合わせた一品。リオネル的には森の中の腐葉土をイメージしたと言う。その味わいが上品に熟成した「フォラテォエール」と見事に共鳴する。
リオネルシェフと言えば、いち早くアートで個性的な皿と盛り付けを取り入れ、「今どきのフレンチスタイル」を走る筆頭であるが、その味わいの着地点の確かさに、いつも「さすがだね」と感心する。最近のフレンチは原点回帰とまでは言わないが、誤魔化しの効かない「基本的な腕前」が問われていると思う。見た目や味わいの斬新さはもうすっかり蔓延していて、私達も気付けば「本当の美味しさ」を求めている。

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言わずもがなであるが、料理もワインも基本がしっかりしていないと、表面だけ演出があっても仕方がない。もう客も飽きているのだ(モダンであるとか、クラシックであるとか、ソースがあるとかないとか、その次元でなく)。続く「鱈の白子のムニエル」も同様、白い皿に緑が美しいベーシックな盛り付け。出来立て熱々の白子、そのホクホクの食感が何とも嬉しい。
そこから青森の黒にんにくと黒カルダモンを合わせたペーストの風味がすっと立ち上がる。蕩ける濃厚な白子の旨味に「パセリソース」の青さと苦みが絡む絶妙さ。そしてキャベツのシャキシャキ感も追いかけてくる。白子の美味しさの周りに様々な要素が絡んで、白子フリークの妻も「リオネルのバランス感覚はスゴイ」と脱帽の様子である。次の料理は「金目鯛」。添えられたのは皮目を焼いたカボチャで、黄色のビーツや干し杏も敷いてある。

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白いプレートにオレンジ系濃淡が華やかだ。金目鯛はニンジンのピューレやレモンバームとターメリックのソースで、カボチャはゆず塩と共に頂く。味わいは相変わらず緻密な構成で、またもや「フォラテォエール」が素晴らしい相性を見せる。「金目鯛の甘さと白ワインの乳酸発酵の素晴らしい出会いですね」と若林ソムリエ。確かに感動的な組み合わせであった。
実は今宵開ける赤ワインは、先にボトルで選んでいた。若林ソムリエお勧めの、ボルドー「シャトー・パルメ(Chateau Palmer) 1978年」蔵出しだ。彼はそのボトルを妻の横に掲げて「ピッタリでしたね」と言う。「エスキス」に来る直前に「ルイ・ヴィトン」で購入した妻のゴールド・ネックレスが、ちょうど黒いドレスに映えてまるで「パルメ」のラベルの様だったのだ。

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キャンドルライトに揺れる「黒×ゴールド」のきらめきが重なって、妻の気分も上がる。なるほどこれは良い演出(笑)そして更に彼曰く「パルメ78の品格に合わせて、敢えて選んだのがこのフォラティエール95です」との事。1814年イギリス人少将チャールズ・パルメが買い取ったメドック地区マルゴー村の「シャトー・パルメ」。英国王ジョージ4世の愛飲ワインでもあった。
格付け第3級ながら時として1級に劣らない事は周知の事実。特に70年代は、マルゴー地区で最も優れていたシャトーと評価とされている。この「1978年」は、カベルネ・ソーヴィニョン53%、メルロー40%、カベルネ・フラン5%、プティ・ヴェルド2%(カベルネ・フランは1996年全伐採)。この年は春が低温で葡萄の成長が遅れ、夏も天候に恵まれず葡萄畑の状態が良くなかった。

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しかし一変して9月の天候がとても良く、10月も夏の様な温かさで葡萄完熟。10月半ばに無事収穫となった。若林ソムリエが丁寧に抜栓、デキャンタージュしていく。クリアに揺らめく美しく深い赤。香り豊かな果実の凝縮感、そして花・土・・綺麗に透き通った熟成で、何とも味わい深く品を感じる。ゆっくり味わって2時間・・
まだまだ乳酸発酵的まろやかさ、立ち上がる優しく華やかなブーケが印象に残る。羽の様な繊細さが料理にしっとりと寄り添ってくれる。そこに、深い赤が印象的な平皿で運ばれたのは「オマール海老」。これはいかにもリオネルらしいモダンな盛り付けだ。身の下にはオマール海老の卵巣とローリエを使ったピューレと、パプリカのピューレが敷かれている。付け合わせは銀杏や姫林檎、シトロンキャビアも振っている。

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様々なスパイスが一体となり、複雑でいてまとまったいかにもフレンチらしい味わい。いつもより力強さを感じさせる味わい。今までのリオネルらしい繊細さを重ね合わせていく味わいから、一歩また進んだ感もする。台湾でシンガポールの富裕層への食事を作ってきたばかりと言う事もあってか、また何やら新しいリオネルの世界が垣間見える様であった。
続く今宵のメインは「蝦夷鹿」。ブルーベリーのパウダーを皮目につけて焼き上げた。パウダーにより真っ黒な肉表面と、断面の鮮やかな赤、そして根セロリのピューレの白が、黒い皿にコントラストを奏でる。繊細な火入れの肉質はしっとりとなめらかな噛み心地。添えられた牛蒡・舞茸・トピナンブール(キクイモ)などで土の風味を感じながら、鹿肉を堪能出来る。

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 振られたハイビスカスのパウダーやセロリパウダーが、リオネルらしい細かなアクセント。このプレートも今までの繊細さと、新たな?力強さが調和した味わい。「パルメ」にも良く合った。チーズは前回も妻がかなり気に入ったオリジナルの1品だ。「グリエールチーズ」「マスカルポーネ」「ブリー・ド・モー」の3層に昆布と刻んだ黒トリュフも混ぜている。
表面には日本酒を使ったソースを塗ってネットリとした食感を出している。添えられた塩に少し付けて、鮨のように手で頂く趣向だ。それぞれを日本酒でつなぎ、アミノ酸の旨味を重ねて黒トリュフで蓋をする。妻はまたしても「お代わりしたいよ~」と言っていた。さて、一息付いたところでデセールの1品目。シャーレーで出て来た「栗」三昧。ちなみにアミューズはシャーレーを逆さに使用していた。

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栗の粉を合わせて焼いた栗、中にも栗のクリームも合わせて、栗の木の板に乗って登場と言う訳だ。クレープの下にはウイスキー漬けにした栗も潜んでる。添えられたグリオットチェリーと薔薇のソースがポイント。デセール2品目は新しい特注の皿、かなり重そうだ(収納も大変らしい)。ガラスの台の様な皿をキャンパスに見立てて、心のままに絵を描いたような作品。
火入れしてブラッドオレンジのリキュールに漬けた「マルメロ」、同じくブラッドオレンジのリキュールに漬けた「ババ」の周りを、複雑に精緻な脇役たちが固める。サバイヨンソースの、ブラックベリーのピューレ、そしてプルーンやバナナ、オレンジなど。いつも一つ一つのピースを味わううちに、全体の大きな味の波に飲み込まれていくようだ。スパイスのアクセントも効いて、食後にぴったりであった。

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最後はハーブティーと、小菓子はお馴染みのミニマカロン、カヌレ、ヌガー、ミニマドレーヌで締められた。新しいサービス陣は丁寧な接客で料理の説明も詳しく、さすがにレベルが高い。ベテランでなく若いサービスでも、妻のファッションや気分に合わせて楽しく会話できる余裕がある。リオネルの料理はいつ来ても、何かしら何処かしらに進化を感じる。
どの料理もピタリと美味しいストライクゾーンに収まるので安心して食せる。複雑な組み合わせでいながら、きっちりとメイン食材の印象が浮かび上がってくる。また今宵は、若林ソムリエチョイスのシャンパーニュ・白・赤がピタリとはまっており、料理との相乗効果で高い満足度であった。「若林さんのマジック凄かったね」と妙に納得している妻と、名残惜しい気分で騒めく銀座を後にした楽しいディナーだった。

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