7月の京都と言えば日本三大祭りの一つ、千百年余の歴史誇る「京都祇園祭」。昨年から「後祭」も復活し、観光する側としても楽しみや日程を分散できるから嬉しい。明日はいよいよ最終日「疫神社夏越祭」、大茅輪をくぐって終了だ。と言う事で今年も訪問した夏の京都。我が家の京都定宿「俵屋旅館」でも、7月から館内各所を彩る七夕飾りが美しく、光り差す中坪周りには「七夕飾り(乞功奠)」の設えが涼しげ。
蹲を「天の川」に見立てて船や「梶の葉」が浮かべてありキラキラ水面に揺れる。風に吹かれる青々とした「笹」と「五色の糸」が艶やかだ。その横には「五色の絹布」に夏野菜の「供物」が置かれている。宿泊客は梶の葉型の短冊に思い思いの願い事を書いて、笹竹に貼るのだ。もちろん私は「家内安全」と書く(笑) ラウンジには古墳時代の「水鳥埴輪(大谷坪出土)」と「萬古焼蛙」「糸巻き」。手前には長刀が描かれた盃とお神酒も置いてある。

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その奥に続く図書室「高麗堂」には、相変わらず貴重な古書がズラッと並んで居心地良い。朝鮮時代の文机、敷かれている二重織のラグは冨田潤氏の作品。そしていつもなら、新館に進んで一階突き当たりの「暁翠の間(暁翠庵)」に向かうとこなのだが、今回は別のお部屋に泊まってみる事に。本館2階、俵屋で一番広い部屋「鷹」をお願いする。こちらはスティーヴン・スピルバーグ、アルフレッド・ヒッチコック、トム・クルーズなどがかつて宿泊したよう。
なるほど外国人向きの「シャワーブース」も備えてある。そう言えばNHK・BSプレミアムで放送された「ザ・プレミアム 京都 ふしぎの宿の物語」で、11代目当主・佐藤年氏が登場し「鷹の間」を改装して新たに書斎を造る場面が映っていた。「暁翠庵」もそうだが、俵屋は繭玉の様な採光が特徴的だ。「鷹の間」の入口は丁度真ん中、二部屋を併せた造りである事が良く解る。壁や押し入れがあったであろう中心部には、美しく作られた庭座の様な空間。

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花が飾られている木の台は、梁の上に上手く設置されているのだ。見下ろす本館の中庭は日当たりも良く、米国南部原産の泰山木などの木々が青々と茂り、活き活きと生命力みなぎる。青紅葉が揺れる中に鳥が訪れ、朝は蝉の声で起きる。この美しい景色は、真ん中の空間、メインの居間、夜は寝室になるサブの居間、そして奥の新しい書斎のどの部屋からも望めることができる。
俵屋が幕末「蛤御門の変」で焼かれた後、この部屋はいち早く再建された。それから現代まで何度も手を加え、今の様な広々と快適な「鷹の間」に至っている。目前に広がる庭と共に俵屋の歴史を刻んで来た、意味深い空間でもあるのだ。注目していた新たに改装された書斎は、居間の奥、風呂場手前に設置されていた。俵屋特有の「袋張」である障子を重ねた柔らかな白、温かい光の取り方が上手く完成している。職人さんと女将の試行錯誤の結果だろう。

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鍋島絨毯が敷かれフィン・ユールのベンチが置かれているのに妻は興奮、「この部屋は私が使うわ!」とはしゃぐ(笑) 寒竹が下がる視界絶妙なデスクには、ポール・ヘニングセンの照明。アーチを描いた天井から下がるのもルイス・ポールセンだ。細い本棚には当主のご主人である故アーネスト・サトウ(Y.Ernest Satow)氏の写真集や「俵屋相伝」も置いてある。
夜になると、窓の外側に設置された「唐長スクリーン」が電動降りて、しっかり遮光できるのもさすがの造り。滞在中気が付けば、私達は二人して真ん中の庭座にいるか、この新書斎にいるかと言う感じであった。床の間の掛け軸は、幕末の富岡鐵斎氏作「柳塘閑釣図」。前に置かれているのは香炉として使われている新羅時代の酒器だ。朱漆塗りの卓が印象的な居間にて「わらび餅とお茶」で一息ついたら風呂に入ろう。

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部屋の両サイドにそれぞれ洗面所・トイレなどの水回りが設置されている。片方には最新の「バスルーム(高野檜風呂)」があり、雪見窓から緑も見える。片方には「シャワーブース」があり、天窓が付いている。バスアメニティもそれぞれ置いてあり、名物「サヴォン・ド・タワラヤ」や俵屋パッケージの「ラクレア(シャンプー・リンス)」「ガーゼのボディータオル」、「アンティカ・ファルマシスタ(ボディローション)」など。
そして夕刻はいよいよお待ちかね、黒川修功料理長による「文月のお料理」が運ばれてくる。まずはシャンパンだ。俵屋旅館に通わせて頂いて長いが、何とこの度初めてハウスシャンパンが変更した!「ドゥラモット ブリュット NV(Delamotte Brut NV)」になったのだ。実は前回訪問時に我が家が開けさせて貰ったのは「サロン ブラン・ド・ブラン(Salon Blanc de Blancs Le Mesnil Brut)」。

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「サロン」はやはり黒川料理長の料理にぴったりで、上質な和食には柔らかく上品な味わいが合うのだと納得したものだった。1988年、「サロン」と供にローラン・ペリエの傘下に入った「ドゥラモット」。葡萄の良年にしか「サロン」は造られず(10年以上熟成してリリース)、その他の年はサロン醸造チームがその葡萄で「ドゥラモット ブラン・ド・ブラン」を作る。
そう、そしてこれが「ドゥラモット ブリュット NV」。コート・デ・ブランのシャルドネが50%、ブズィとアンボネのピノ・ノワールが30%、ヴァレ・ド・ラ・マルヌのピノ・ムニエ20%。ドサージュは1L当たり9gと控えめ。日中35度を超えたこの日、18時を過ぎても日の光に溢れている。緑豊かな庭を眺めながら頂く「ドゥラモット」の爽やかな清涼感が、まさに「夏の京」にぴったりだ。

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そんな中美しい「先附」が小茶碗と共に並べられていく・・いつものお部屋係さんに注いで頂く食前酒は、仄かなピンクの「すもも酒」。甘さも香りも心地よく妻もご機嫌だ。黒川料理長の直筆お品書きは、いつもながら写経の様な美しさで感心する。小茶碗は、三度豆とコントラストな「蜀黍摺り流し」。モロコシの甘みに胡椒が良い。可愛い小皿には、吸い付くような「鮑」がずいき花山椒煮と共に。
優しい出汁の「烏賊素麺」は軽く喰出し生姜と三ツ葉も効かせて。枝豆が映える「羽二重豆腐胡麻酢掛け」は、香ばしい胡麻酢が良いアクセント。しみじみと爽やかな「海老艶煮、小芋白煮、三度豆、柚子」。更に木の芽がポイントの「鱧の子、しめじ、山吹煮」。う~んやはり「ドゥラモット」の穏やかな酸味と仄かな旨味と良く合う。続いて、黒川料理長の包丁捌きがいつも楽しみな向付だ。

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お待ちかねの鱧は、いつ見ても感心する「薄造り」と、そして外せない「湯引き」。穏やかな梅肉醤油やポン酢で楽しむ。アンティークのラリック皿に盛られた薄造りは、透き通るような美しい美味しさ。もう一皿「茂魚焼目造り」は、千利醤油で頂く。次は煮物、籠に金の鳥が可愛い漆塗りの椀で出て来た。愛でながら蓋をそっと取ると、まるで翡翠の様な美しさの「博多冬瓜」が顔を見せる。
絞り生姜も効いた夏らしく熱々の冬瓜。月冠牛蒡、芽葱、間にはふんわりとした穴子も挟まれている。滋味深い出汁を飲み干す頃には夏らしい気分に包まれていく。そして時間と共に「ドゥラモット」も開いてきた。白い花・蜜・白桃・・それらが自然に顔を出す穏やかに複雑な、そしてオープンな香り。繊細で上品な酸と自然なミネラルが黒川料理長の料理に寄り添う。

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次はいよいよ、妻がずっと楽しみにしていた「鮎笹焼」が運ばれてきた。笹の焼いた香りに包まれながら、琵琶湖の鮎を蓼酢で食する。軽い歯ごたえから、仄かな苦味以上に旨味・自然な甘ささえ感じる鮎を、パクリと頭からかぶりつく愉悦。その他にもアスパラを挟み込んだ「鱸山椒焼」、「蓮根諸味焼」「煮梅」も添えられて食べ応えある焼物であった。
続く御凌ぎは、クリアな深蒼が美しい冷やし鉢に盛られた「焼野菜浸し」。みずみずしく柔らかな賀茂茄子、赤芋、赤ピーマン、軽い歯ごたえの椎茸、南瓜、ズッキーニ、伏見唐辛子が色鮮やかに映える。繊細ながら優しい旨味の出汁でまとめた焼野菜は、一つの調和を持って迫ってくる。この辺りで俵屋特製の冷酒「吟醸 俵屋」も頂こう。京都北山で創業110年を超える「羽田酒造」の作り出す地酒だ。

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妻お気に入りのブルーのガラス徳利にて登場した。一息付いた所で、ジュージューと鍋の音がする。熱々の「鱧柚香鍋」、柚子の香りが感じられるハモ鍋だ。妻はワ~イ!と手を叩く。若水菜、焼豆腐、結び麩も鱧と共に潜んでいる。これまた上品な、さっぱりした出汁が美味。冷房がきいた中で、心地よく温まりがら飲み干せる。
そして強肴は「火取り鱚吉野酢掛け」。上にたっぷりかけられた叩きオクラが青々と美しい。芽じそに香りまろやかな湯波、もちろんご近所の老舗名店「湯波半老舗」の物だろう。鱚の柔らかな食感、そして柔らかな酢のまとめ方が体に沁み入る。締めのご飯は、この日も黒川料理長がわざわざ炊き上げてくれたと言う「鶏牛蒡ご飯」が登場する。釜の蓋を開けるとふんわり広がる鶏と牛蒡、そして山椒の香りだ。

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絶妙な米の炊き具合に、適度な濃さのしみじみした味わいを満喫する。浅漬けの胡瓜や賀茂茄子と共に、おこげまでしっかり頂いた。最後の水物「マンゴジュレ」は、もちろん残して置いた「ドゥラモット」を合わせて楽しむ。コースの流れにメリハリがあり、猛暑の京都でもスルスルと美味に完食、満腹になれるのが嬉しい。素材の良さ、細かなそして最低限の手を加えた素材の味わい・・
その根底に流れる黒川料理長の優しさ・おもてなしの心を、ひしひしと感じる料理に今宵も満足した。食後しばし寛いだ後、就寝前のお茶と和三盆「福俵」が運ばれる。そうだ、いつもの「暁翠」にはベッドルームがあるので布団は敷かれない。暁翠も改装前は布団敷きだったなと思い出す。気が付けば客室係りさんが、もう一つの居間でササッと布団を敷き始めている。久し振りに拝見する職人技に妻のテンションも高い。

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まず下に敷かれるマットレスがもうベッド状態、これがかなり高級なのだそう。その上に有名な「究極の布団(マザーグースのハンド・ピックのダウン)」が重ねられる。この季節は俵屋のロゴ刺繍が施された「麻ケット」が用意される(どれも「ギャラリー遊形」で購入可)。あれよあれよと言う間に、乱れなく美しく布団が2セット出来上がった。驚くべき技術、やはりキャリアが物を言うのだろう。
暁翠のベッドセットと同じ物であるが、気分が変わるのもたまには良い。さて寝る前に、部屋の斜め前に位置する談話室「アーネスト・スタディ」に行こう。ハンス・J・ウェグナーの名作「ベアチェア(APストーレン社製のビンテージ!)」に座って、バーブティーでも頂こうと思っていたが、何とも実際座ってみると気が引ける(笑)

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 妻はオーレ・ワンシャーのイージーチェアに座りつつ、外国から贈られたというアンテークの万華鏡をずっと覗いている。キラキラと照らされるレトロな輝きはまさに七夕のよう。星に願いをと言ったところだろうか。静かに談話室を見渡せば、いつもの「暁翠」のイメージに近い・・・次回はまた「暁翠の間」に泊まろう。不思議とそんな懐かしい気持ちになった。
広々とした快適な「鷹の間」で、いつもと違う角度から楽しめた今回。また一層「俵屋旅館」の懐の深さを感じ新たな魅力も発見した。そんな事を思いながら布団にもぐりこむ。「また次に来るのが楽しみね」と妻も呟いた。