この夜雨の中、宿泊先の「マンダリンオリエンタル東京」から向かったのは恵比寿ガーデンプレイスにある「シャトーレストラン ジョエル・ロブション(Chateau Restaurant Joel Robuchon)」。ジョエル・ロブション氏が来日し、ロブション初となる野菜づくしのガラディナー「フード&ライフ(Food and Life)」が開催されるからだ。
2日間限りのガラディナーの会場は1階の「ラ ターブル ドゥ ジョエル・ロブション(LA TABLE de Joel Robuchon)」。ラターブルでのガラ開催自体も初となる。我が家はいつも2階の「ガストロノミー ジョエル・ロブション」なので気分が変わって面白い。70歳を超えたジョエル・ロブション自身が、医学博士ナディア・ヴォルフ(Nadia Volf)女史のアドバイスで体調が良くなったと言う。

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昨年には共著「Joel Robuchon Food and Life」も出版している。そんな体験も通じて長年構想していた身体にも味覚にも優しいコース、つまり「ベジタリアン」や「グルテンフリー」を意識した野菜づくしのディナーコースが遂に完成したと言う訳だ。食事療法による効果・効能を考慮し開発された8種類のプレートは、「トマト」「ビーツ」「アスパラガス」「アーティーチョーク」などの野菜で構成され魚や肉は提供されない。
紫色と黒をベースにしたインテリアの「ラ ターブル ドゥ ジョエル・ロブション」。この夜はガラと言う事でテーブル配置はいつもとは違い、従来敷かれてるカジュアルなマットではなく、上階と同じ黒いテーブルクロスが用意された。クロスのシックな風情を気に入ったロブション氏は「1階も今後はこれで行こう!」と指示したとの事。1階奥の静かな席に案内されると、妻は「上と違ってアウェイ感あるわぁ」と興味津々に見渡している。

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テーブルには彩り鮮やかな野菜のディスプレイだ。そして我が家のサービス担当してくれるのは上階からわざわざ出向いてきてくれた村林篤メートル・ド・テル。美しいサービスに加え、新メニューの細かな勉強も怠らず、調理法から調味料などかなり丁寧な解説をしてくれる。ちなみに今回は、ターメリックやローズマリーに緑茶などの抗酸化作用の高いものを意識的に取り入れているとの事。
そして信国武洋シェフ・ソムリエの登場。ワインリストも上階はiPadだがこちらは通常のブック式。ただ品揃えはさすが。新メニューを試食した信国ソムリエに、早速今宵のワイン選択を相談すると、赤ワインはかなり難しいのでグラスも白を中心に用意していると言う。そこでシャンパーニュで通す事にし「クリュッグ クロ・デュ・メニル(Krug Clos du Mesnil Brut Blanc de Blancs Vintage) 2000年」13万円をチョイスする。

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相変わらず良心的な値付けだろう。クリュッグの2haの畑から生み出される特別のブラン・ド・ブラン。裏面には製造番号と共に「2000年9月24・25日に収穫、11390本のボトルと481本のマグナムが生まれた」と記述がある。思えば2年前も上階にて同「クロ・デュ・メニル 2000」を開けている。暗めのダイニングの中、照明でキラキラ浮かび上がる黄金の泡。
洋ナシ・アプリコット・ビネガー・摩り下ろしたリンゴ・・かなり酸味を感じるところから、妻は「お~♪敢えてのヘルシービネガードリンクね!」と妙な納得をしている。信国ソムリエ曰く「3ヶ月前に開けた時は閉じ気味でしたが、今日のはかなり開いてます」と。そんな貴重な1本をゆっくり味わうとしよう。そこへ最初のプレート、「とろけるキノアをとじ込めててフライに スモーキーなピキオスのソースをのせて」が運ばれて来た。

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世界で近年大流行している、アンデス山脈ヘルシー擬似穀物「キノア(キヌア)」。その独特の食感と淡白な味わいを、ジャガイモとヒヨコ豆のブイヨンで炊いてピューレにし、更にキノアを纏わせて揚げているのだ。トップの赤いアクセントは、赤ピーマン(ピキオス)をスモークし、ピューレにしたもの。キノアの異なる食感を楽しむ凝ったアミューズに、妻は「キヌアがこんなに可愛く食べやすくなるなんて?!」とびっくりしていた。
続いて運ばれたのは、これまた可愛い彩りの「ビーツ リンゴと合わせ、苦味のあるサラダと グリーンマスタードのソルベと共に」。「ビーツ」「リンゴ」「アボガド」のタルタル、その上には爽やかスパイシーな「グリーンマスタード」のソルベが鎮座する。「ターメリック」「ビーツ」「バルサミコ」の3種のソースで描かれ何とも美しい。

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全体的に甘いが、ソースを自由に絡めながら変化する味わいを楽しむ。聞けばビーツがさほど好きでないロブション氏が試行錯誤し、ビーツが苦手な人でも楽しめるようにと考案したそうだ。いつもと違うヘルシー&ビューティーな料理を楽しんでいる所へ、いつも楽しい山地誠総支配人が登場。今回のガラの経緯や今後の展開など色々説明してくれた。
そして山地総支配人と同様にロブション20年選手の松澤剛レセプションマネージャーもテーブルに。久しぶりにお話する事が出来て懐かしい。後半には上階から、これまた20年選手の原田聡メートル・ドテルが挨拶に来てくれる。妻もいつものメンバーの笑顔にご機嫌だ。さて、ここでパンが登場する(上階ではワゴンだが、ここは籠)。いつもの「ライ麦パン」もラードを使用せず、他のパンも米粉などを使ってグルテンフリーと言う新作。

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そんな中から「アオサのフォカッチャ」「ピキオス」「トマトとオリーブ」などを頂いた。妻は「これがグルテンフリーなんて信じられない!」と目をパチパチ。アメリカでは既に一般的なグルテンフリー、とは言ってもなかなか美味しさを伴う実践は難しい。さすがロブションの世界と言ったとこだろう。妻がうわぁ~♪と思わず声をあげたのは「トマト 爽やかな酸味のボンボン 透明なジュレとのハーモニー」。
マイクロトマトやトマトの種で美しく描写されて華やか。底に敷かれた透明なジュレもトマトだ。バジルの葉も乗せられた真っ赤なプチトマトには、トマトパウダーが振られている細かさ。口に含むとパッと中のガスパチョが弾け、奥深い甘さや旨味に加えてふんわり酸の香りに満たされる。何とも初夏らしいさっぱり爽やかなプレートだった。

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ここで一旦テーブルにはジョエル・ロブション氏が軽く挨拶に顔を出す。「お~また来てくれたね」とにこやかに妻と握手をして「また後で来るよ」と厨房に戻っていく。続く料理は「プティポア ミントの香りとオニオンのママレードをまとわせ 滑らかなアーモンドのヴルーテを注いで」。目の前で注がれたのは香り立つ温かいアーモンドのヴルーテ。
プティポワ(グリーンピース)は、鶏でなくヒジキや昆布など海藻のブイヨンで炊いて、ミントのオイルを絡ませている。プレートにサッと塗られた「キャラメリゼしたオニオン」を溶かしつつ頂く。このコクや甘みが実に上手く効いてた。シャンパーニュで通すつもりであったが、やはり白も頂こう。信国ソムリエが合わせてくれたグラスの白ワインはブルゴーニュ「ルシアン・ル・モワンヌ ピュリニー・モンラッシェ シャン・ガン(Lucien Le Moine Puligny-Montrachet 1.cru Champ gain) 2010年」。

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レバノン出身のルシアン・ル・モワンヌは、少量生産のネゴシアンで評価が高い。「蜜の香りが野菜の料理の甘さと合うと思います」と勧めてくれた。美しい黄金色がキラキラとグラスに揺れる。蜜・バニラ・深いナッツ・・そして豊かな酸味。確かにグリンピースらの甘さを際立たせてくれる組み合わせに満足。
次は「ホワイトアスパラガス 二種の調理法(ブランチャ・エチュベ)で仕上げ 黒にんにくと味噌・卵黄のソースをからめ エスプレット唐辛子とシソの葉をアクセントに」だ。今宵の食材は日本産にこだわったが、ホワイトアスパラガスだけはロワール産と言う。その穂先はブランチャで焦げ目をつけ、下部は牛乳で真空調理したもの。なるほど、調理の差・食感の差だけでも十分美味しい。

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更に添えられたソースが油脂の代わりになって、滑らかさやコクを加えフレンチらしさを漂わせてくれる。黒にんにくの香りも食欲をそそる。少量ながらも満足度のかなり高いプレートだ。次の「アーティチョーク なめらかなピューレとローストに ターメリックの香るヒヨコ豆のカプチーノソース」が運ばれて来ると、ターメリックの香りがフワリとテーブルに流れ出す。
フリットにしたアーティチョークの下にはアーティチョークのピューレ。ソースのように味わう趣向だ。パプリカと卵黄、オリーブオイルで乳化させたネットリした口当たりのソースは、塩気も少し強く効かせてきた。アーティチョークをコース中の一つのメインになぞらえ、意識的に味わいのトーンを変えているのだろう。ちなみにアーティチョークは、ナトリウムを排泄するカリウムが豊富。

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やはり赤ワインに合うコースではないのだが、シャンパーニュと白ワインを楽しむと我が家的には赤ワインも少し飲みたくなる。そこで信国ソムリエに「何かお勧めの赤をグラスで~」とお願いしてしまう。すると何と、信国ソムリエが持ってきたのは「ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ エシェゾー(D.R.C .Echezeaux) 2000年」!?
まさかのバイザグラスで出してくれると言うのだ。「D.R.C」をグラスで出せるレストランが日本に如何程あろうか。こんな日は料理は料理としてワイン自体も楽しんで!と言う訳だ(1杯1万円程度)。ガラの気分を盛り上げる何ともスペシャルなチョイスだろう。妻は嬉しそうにグラスに顔を突っ込んでいる。まさにDRC香・・赤い果実のジャム、仄かなスパイスなど穏やかながら複雑なかぐわしい香り、余韻も長い。

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最近こちらで開けて良かったと言う「D.R.C エシェゾー 2000」、これはセラーにある最後の一本と言う。スペシャルなワインをグラスでも楽しめるところが「ジョエル・ロブション」の凄さの一因だろう。料理に戻っていよいよ終盤。夏らしい黄色のプレートがやって来た。「コシヒカリ米 サフランと海藻バターの風味でリゾットに 花野菜のクスクスを散らし、ピメントスとヒヨコ豆のジュをあしらって」だ。
野菜づくしコースなので料理の最後はどう来るのかなと思っていたら、まるで花畑のような「リゾット」が登場した。ピュアな野菜らしい穏やかな甘味を感じさせる味わい。サクサクとした食感を奏でるピメントスのアクセントも良かった。デセールは「メロン パッションフルーツと合わせ、ヨーグルトの結晶をまとったココナッツのソルベ、人参のスュックと共に」。人参のシロップとココナッツのスープで和えたメロンだ。

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フロマージュ・ブランのアイスを乗せて甘くまろやかに頂く。締めはハーブティーと「ミントのショコラ」で、すっきり爽やかにコースを終えた。「野菜づくしコース」と言う事で、メニューを見ても量的にも軽いのかなと予想していたが、かなり満腹になった。ワインは信国ソムリエのコメント通り、白ないしシャンパンで通す感じが一番合うだろう。
ロブションらしいいつもの王道フレンチは残しつつ、ベジタリアンの浸透しない日本での一つのチャレンジと言った赴きか。確かに翌朝もかなり体は軽く、フレンチを食べたとは思えなかった。ロブション本来のクラシックながら現代的なフレンチのベースをそこはかとなく感じつつ、全く別の雰囲気の料理を楽しめた。逆に基本が王道フレンチだからこそ提供できる野菜づくしコースと言えるかもしれない。

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食後テーブルに再び訪れたロブション氏曰く「これは絶対に太らない。このコースで更に美しく健康になりますよ」と、自信満々の笑み。一緒に挨拶に回っていた「ラ ターブル ドゥ ジョエル・ロブション」の朝比奈悟シェフとの記念撮影もにこやかだ。毎年ガラディナーにてロブション氏とお逢いしているが、確かに年々若々しくエネルギッシュになっている。ベジタリアンと言うとあっさり、さっぱりというイメージもあるが、洗練されたモダンな野菜料理を、起伏に富んだ流れで楽しむ事ができた。こちらでは今回のガラに近いメニューを9月30日まで18000円で提供するとの事。ベジタリアンだけでなく、ヘルシー志向の方、ダイエット中の方、ご年配の方、ワインなしにさっぱりフレンチを食べたい気分の方に良いだろう。

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もちろん1階も2階も、いつもの迫力なロブション料理はこれまで通り味わえる。その上今回のガラを契機に「現状に甘んじず、もっともっとスペクタクルを!!」と言うロブションの檄が入ったそうで、「スペシャリテコース(MENU DEGUSTATION)」は残しつつ「プリフィックススタイル(MENU A PRIX FIXE)」も導入し、何と昼と夜の垣根をなくすとの事である。
つまりランチにもディナーメニューが楽しめると言う訳だから、時差のある海外ゲストからも歓迎されることだろう。当然ながらスタッフはますます忙しくなって大変だ(笑) 次の「ガストロノミー ジョエル・ロブション」訪問時はさらにスペクタクル化したロブションワールドになっているのか・・早くも楽しみになったねと話しつつまだまだ盛り上がるロブション城を後にした。