フランスでのスタジエやシェフの経験を経て、日本各地で活躍するシェフが今や普通になった。さらにはフランスにそのまま残ってシェフとして活躍する人も多くなった。そんな中登場したのが日本人初のフランスミシュラン2ツ星。佐藤伸一シェフ率いるパリのレストラン「パッサージュ サンカント トロワ(Restaurant Passage 53)」だ。
開業わずか半年で1ツ星、その1年後に2ツ星を獲得し、現在5年連続2ツ星に輝いている。北海道出身の佐藤シェフは、パリの「アストランス(当時1ツ星、現3ツ星)」や「ピエール・ガニエール」、スペイン「ムガリッツ」を経て、著名な肉屋「ユーゴ・デノワイエ(Desnoyer)」をスポンサーに2009年「Passage 53」をオープンさせた。

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現在はその「デノワイエ」子息ギヨーム・ゲジュ(Guillaume Guedj)氏と共同経営となっている。パリ2区にあるパリ最古のパッサージュ、18世紀の歴史建造物「パッサージュ・デ・パノラマ (Passage des Panoramas) 」の一角53番地というパリ独特の風情ある素晴らしいロケーションだ。佐藤シェフは2013年「ルレ・エ・シャトー」グランシェフの称号を取得。
2015年「LE CHEF」誌の世界の料理人トップ100にも選出された。そして世界のレストラン・ランキング情報「Opinionated About Dining」の「欧州のレストラン・トップ100(Top 100+ European Restaurants 2015)」の48位にもランクインした。

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そんな佐藤シェフが今回本店を一週間クローズし、共同経営者でもあるメートルのギヨーム・ゲジュ氏と彼の弟(メートル)、そして調理スタッフ8人を引き連れ来日。東京初となるフェアを「ホテルニューオータニ東京」にて行った。先日のマンダリンオリエンタル東京での「ノーマ」フェアもしかり、大掛かりなレストランイベントも増えてきた。星付きレストランが増え、地方特別版も含めると「星」があふれる日本。
もう「海外星付きシェフのフェア」と言うだけでは、集客できる時代ではないだろう。シェフの実力・魅力に加えて、招聘する側・される側の本気度も消費者の選択の対象になってきている。さてディナー予約時間、フェア会場であるガーデンタワー40階にある「ベッラ・ヴィスタ(BELLA VISTA)」に伺う。オープンキッチンの中には佐藤シェフの顔も見える。テーブルにはフェア日のための特別ワインリストも準備されている。

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パリ「Passage 53」のワインリストを参考に、オータニ側が用意したものだ。シャンパンとしては、「ドン・ペリニヨン 2004」グラス4800円・ボトル38000円、「モエ・エ・シャンドン グラン 2006」グラス3000円・ボトル22000円、「ドン・ペリニヨン ロゼ 2003」90000円が用意されていた。しかし我が家は通常のレストランのワインリストから「サロン ブラン・ド・ブラン ル・メニル ブリュット(Salon Blanc de Blancs Le Mesnil Brut) 1996年」64000円をチョイスした。
夕暮れに煌めく泡は何とも美しい。熟したリンゴ・黄桃・・ミネラルは柔らかくなり穏やかなアタック、まさに飲み頃と言える美味しさ。オータニ全体の飲食部門を統括するエグゼクティブ・シェフ・ソムリエ谷宣英氏曰く、「このサロン1996は、当時ホテルと掛け合って120本ほど仕入れた思い入れのあるワインです。2年前位からようやく開き始めたと思います」との話だった。

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確かに我が家も「サロン 1996」は、2年前・4年前と飲んでいたが今回のが一番よかった。もちろん、オータニが直接仕入れて「トゥールダルジャン東京」のセラーで眠っているのだから、状態も良いのだろう。サロンを食前酒的に楽しむうちに、料理が一部のテーブルに運ばれ始めた。
ディナーコース(27000円)に加え事前予約すれば、佐藤シェフのスペシャリテの一つ「ソローニュ産インペリアルキャビアとジャガイモのニョッキ ピエモンテ産ヘーゼルナッツとマスカルポーネのムース」10000円が追加可能だった(限定100食)ので、当然我が家もお願いしていた。まずはその追加料理「Caviar」が運ばれる。コンモリと盛られた迫力のキャビアに目を奪われる。

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本店では25gも提供するというが、このフェアでも18gと十分な量だ。「キャビアとジャカイモ」という定番の組み合わせに疑問を抱いた佐藤シェフが試行錯誤して練り上げて一品という。まずキャビアは、フレッシュさの際立つロワール地方ソローニュ産の淡水で育ったもの。収穫してすぐに密閉されるため鮮度が格段に良い。
上質のキャビアが持つヘーゼルナッツ香との繋ぎも考えられた完成度の極めて高いプレートだ。「インカの目覚めのニョッキ」のネットリ感とフレッシュなキャビアのネットリ感、そして澄ましバターの風味に塩気。それが微妙な温度差を保ちながら口の中で渾然一体となる。続くプレートは「Brocolis ブロッコリーの新しいかたち」。

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ブロッコリー茎の部分を塩・クリームだけでなめらかなムースにして、エスブーマにしたもの。その上にブロッコリーの粒々(いわゆる花蕾部分)を少し茹でて乗せ、ブロッコリーの形状を再構成したという訳だ。一見シンプルだがスプーンを入れると何ともすべらか。口に運ぶとリッチな舌触りに新鮮な野菜の香りに包まれる。
本物のブロッコリーよりもブロッコリーらしい味わいというべきか・・これまたグッと気持ちが引きつけられていく。続いて「Oursin ウニとアドッククリームとデュルスのジュレ」。フランスで流行ってるという、干し鱈の燻製をベースに煮詰めたアドッククリーム。その独特の旨味、微かな燻香と塩気が全体をまとめ上げる。

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海藻のジュレとウニがこれも一つになって、まとまった「海」の味を感じさせる。上に降ったネギの花の香りもまた良かった。日本人ならではの雲丹の扱いによって、見事にフレンチに昇華した一皿に大満足。周りのテーブルからも「美味しい!」という声が漏れていた。次はいよいよ佐藤シェフのあの白いスペシャリテ「Calamar イカとカリフラワーの白いお皿」の登場になる。
「Passage53」と言えば白、店内インテリアも白で統一されてこだわりがある。よってこの日の妻の装いも全身白にした。もちろん今年のトレンドでもあるが、佐藤シェフへの敬意も込めて。上に乗っているのは「生カリフラワーのスライス」、ふわり消えていくような薄さ。下には軽く表面を焼いたコウイカの香ばしさが思ったより立ち上って来る。

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敷かれているのは、オリーブオイルで滑らかなタッチを表現した「カリフラワーのピュレ」。最後に振られたフルール・ド・セルが全体を引き締める。
カリフラワーの様々な食感とまろやかさ。イカの香りと甘みが絶妙なバランスを奏でる。そして全体を白でまとめた美しさ。正にスペシャリテである理由が体感できた一品だった。
「Asperge blanche フランス産ホワイトアスパラ カルボナーラソース」。ロワール産ホワイトアスパラガスは、微かな食感に続いてジュースが溢れ出す。そしてカルボナーラソースが何とも美味。「ホワイトアスパラガスはバターコンフィが一番美味しいという佐藤シェフのこだわりの仕上がりだろう。パリパリのパルミジャーノの塩気と、軽くミモザ風に振った卵黄もアクセント。

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最後までソースを楽しめる様にとバン2種が添えられており、ソースを拭いつつ最後まで頂いた。ここで白ワインをグラスで頂こう。フェア用のワインリストの中から迷わず「パヴィヨン・ブラン・デュ・シャトー・マルゴー マグナム(Pavillon Rouge du Chateau Margaux Magnum) 2011年」6000円をお願いする。
やはりマグナムで頂けるのは貴重である。甘露な甘さに厚みのあるテクスチャーが存在感をみせる。上品なミネラルと酸が全体を引き締める。「深いながらもエレガントな美味しさね♪」と妻も楽しんでいる様子だ。

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次は「Homard ブルターニュ産オマールと春の野菜」。フランス産グリーンピースのソースや、しゃきしゃきのグリーンアスパラガスに色鮮やかなオマールが映える。春野菜の青さと「マルゴー・ブラン」がぴったり爽やかに寄り添い合う。今度のグリーンアスパラガスは、先程のホワイトアスパラガスよりも繊維を感じる歯ごたえを微妙に残している。
中心部に微かな歯ごたえを残したグリンピース、そして最後にオマールのプリプリの身の旨味を存分に味わう・・フランスらしい味わいに満足だ。続いて登場したのは「Ormeau 鮑」。実は最初のメニューでは「鮑」ではなく「仔羊」だった。佐藤シェフのイメージしていたブルターニュ産が日本には入って来ないため急きょ変更されたのだ。

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日頃パリでフランスNO.1の肉屋「デノワイエ(Desnoyer)」から仕入れているのだから、なかなか今回のフェアでも食材調達は大変だろう。肝のソースと泡立てたアドックソースを絡めながらスプーンで頂く。中には磯香り立つ鮑だけでなく「インカの目覚めのニョッキ」も数個潜んでいる。微妙な食感の差が食べ手の満足感をまた引き上げてくれる。
深く濃厚な海の味わいがぐっとこちらに迫って来るような1皿だった。ここまでだけでもパリらしい洗練された料理に大満足する。そんな中ショットグラスに入った「Granite オゼイユのグラニテ」が運ばれた。オゼイユの特徴を絞り出したような独特の味わい。そこに「青リンゴのソース」が爽やかな甘さと香りを加えてくれる。

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苦みを感じさせるオゼイユの野生の酸味が響く、なるほど納得の口直し。さぁ次は噂の「Oignon 新玉ねぎとイベリコ豚のチョリソー」の登場だ。ローストした日本産新玉ねぎを1枚1枚剥いて、その間にチョリソーを重ね、再び「玉ねぎ」の形に成形する。それからオーブンでキャラメリゼしたもの。いわゆるミルフィーユ仕立てで、表面のキャラメリゼが何とも香ばしい。
本店ではイベリコではなく「黒トリュフ」を挟む事もあると言う。聞くだけでイメージがムクムクと広がり食べたくなる(笑) と言う訳でここで赤ワインもグラスでお願いしよう。フェア用のワインリストを最初に見た時から、妻が「これにしてね♪」と決めていた「シャトー・マルゴー マグナム(Chateau Margaux Magnum) 1999年」18000円だ。グラスでマルゴー、しかもマグナムと来ている。

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その他は、「パヴィヨン・ルージュ・デュ・シャトー・マルゴー マグナム 2004」6000円、「ジャック・フレデリック・ミュニエ ニュイ・サン・ジョルジュ クロ・ド・ラ・マレシャル 2011」4800円などがあった。「シャトー・マルゴー」も谷宣英ソムリエが、マグナムボトルを軽やかに片手でサーブしてくれる。
大きなグラスに揺れる美しい濃い赤・・アタックは軽やかで、コーヒー・スミレ・ハーブ・・マルゴーらしい上品さ。タンニンの存在感はあるが圧倒的にまろやかで優雅な余韻を見せてくれる。シャトーから直接空輸されたマグナムだけあって、得も言われぬ素晴らしいコンディションだ。そんなマルゴーをじっくり味わっている所へ登場したのは、今宵のメイン「Poularde ブレス産プーラルド胸肉のロースト もも肉とフォアグラのバロティーヌ」。

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ブレス若鶏の胸肉表面はパリパリに香ばしく焼き上げる一方、身は本当にしっとりとなめらかに仕上げている。もも肉はフォワグラと共に網脂で包み込んでいる。マッシュルームとプーラルドのジュのソースがこれまた濃厚で、まさに「パリで頂くフレンチそのものだね~♪」と妻と会話も弾む。レモンを垂らしたシットリしたほうれん草の付け合わせと共に、最後まで美味しく頂けた。
最後「Dessert」、4種も出てくる。何と「Passage 53」の共同経営者のギヨーム・ゲジュ(Guillaume Guedj)氏がサーブしてくれる。妻は「キャ~!イケメンすぎる~♪」と1人はしゃぐ(笑) 彼はフランスの肉屋「ユーゴ・デノワイエ」の子息だ。まずは1品目は可愛いビジュアルの「イチゴとベリー」のデザート。甘く儚い泡とピンクのソルベ、サクサク甘いメレンゲの食感も楽しい。トッピングに白花も。

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私はここから、残った「サロン」を白ワイングラスで楽しむ事にする。2品目の平皿は「ニワトコのシャーベット」。ニワトコの香り立つ爽やかなシャーベットの下には「ココナッツミルクのスープ」。クレームブリュレ的なパリパリのキャラメリゼの食感が良い。散らした少しの「ニワトコの花」が独特の味で効いている。
甘さど塩気とのコントラストが引き立ち、スルスルと美味しく頂けた。次はパリの店でもお馴染み、佐藤シェフが一番美味しいショコラの食べ方だと言う「ショコラのタルト」。タルト生地が極薄、「世界一薄いタルト」なのだそうだ。ベローナ産チョコレートにヘーゼルナッツの香り、滑らかさは「水飴」だと言う事で納得。少しだけ垂らしているのは「アカシアのソース」。

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濃さと甘さのバランスが良く、ショコラ好きの妻はペロリと食し、「これまた食べたい」と名残惜しそうだった。そしてもう一皿、一見して「日本のケーキ」とわかる風情のがやって来た。なるほど、これは「Passage53」のではなくホテルニューオータニ東京「パティスリーSATSUKI」のもの。ホテルのグランシェフ中島眞介氏とのコラボレーションメニューとの事だ。
SATSUKI定番人気の「スーパーメロンショートケーキ」をバージョンアップさせた新作、「エクストラスーパーメロンショートケーキ」。後日SATSUKIではこれを1日10個限定1ピース3800円で販売開始と言う。1木1個に絞った直径約18cmの静岡県産マスクメロンを、1ピースに3分の1も使用していると言うから驚く。玄米卵を使用して白くふわっとした生地になり、アーモンドミルククリームがメロンを引き立てる。

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そんな盛りだくさんのディナーコース、締めは「生ハーブティ」を頂いて大満足で終えた。多皿コースであるが一皿一皿、凝縮し複雑な旨味であったり、ピュアな素材の食感や味わいだったり、考え抜かれた完成度を堪能できる。その為今でも、何を食べたかはっきりと味わいを思い出す。ワイン好きでドメーヌで醸造法も学んだという佐藤シェフらしく、ワインとも様々な接点があり、抜群の相性を見せてくれた。
帰り時佐藤シェフと色々お話する事が出来たが、フェア終了翌日にはパリに戻り、即日店を開けると言うからエネルギッシュだ。また夏に佐藤シェフは来日されると言う事で「ななつ星」の他でもフェアが行われるかもしれない? 再会を楽しみに手を振りながらレストランを後にし、2人機嫌良く同ホテル「エグゼクティブハウス 禅」へ戻った。