一昨日15日は、京都三大祭りの一つ「葵祭」が開催されていた。「下鴨神社」「上賀茂神社」の例祭で1400年前に始まったとされ、源氏物語にも登場する。天候に恵まれた今年、雅に美しき十二単など平安装束に身を包んだ500人が、京都御所から下鴨神社を経由して、上賀茂神社まで練り歩く。観客は約23000人との事だった。
葵祭に欠かせないのは「賀茂葵」。青いこの双葉葵(二葉葵)が、社殿・内裏宸殿御簾・勅使・供奉者衣冠・牛車など全てを美しく飾る。1万枚使用する事から不足も心配され、保護活動も行われている。ゴールデンウィーク中新緑の輝く嵐山まで足を延ばした際、食事に伺った「京都吉兆 嵐山本店」でも「葵祭」の季節に合わせて、葵の葉が色鮮やかに描かれた器が使われていた。

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青もみじに加えツツジや藤の花でいっぱいの嵐山、年間約800万人が訪れる京の名所だ。連休中とあって「渡月橋」周辺には、海外含めた多くの観光客が記念撮影などしている。昨年の水害から見事に復活を遂げていた。そんな桂川沿いを車で進むと立派な門構えの屋敷が見えて来た、船着き場の前だ。
門内は緑豊か、庭の先に立派な数寄屋造が佇む。若い衆がさっと出迎え玄関まで案内してくれる。快晴で美しい春の昼下がり、こちらでゆっくりとした時間を過ごす事にした。10室あるうち、今までは昼も夜も1階の「中広間」で日本庭園が見える部屋だったが、今回は趣向を変えて2階の座敷「千鳥」にて楽しませて頂く。

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窓からは屋根越しに、庭の立派な紅枝垂れやみずみずしい青もみじが見える。桜満開時には窓を取り外す事もあるそう。その先には桂川、この季節は輝くような青さの山々も見える。なるほどそんな景色に呼応する様に、床の間の掛け軸には「青山」、豪華な金屏風にも「青山」が描かれいる。
見上げれば天井が三角形になっており、聞けば「屋形船をイメージしている」という粋な造りだ。そんな風情の中、塩漬けした桜を浮かべた「名残の桜湯」が運ばれる。ほのかな桜の香りに一息つく。さて「吉兆嵐山」の献立は、昼食限定特別料理が43200円と、後は48000円・54000円、おまかせ(時価)となっている。

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今回は54000円のコースをお願いした。こちらはワインも充実している。前回はアンリオ・キュベ・デ・アンシャンテルール(Henriot Cuvee Des Enchanteleurs)1995年」を頂いたので、今回は「サロン ブラン・ド・ブラン ブリュット(Salon Blanc de Blancs Brut) 1999年」約70000円をチョイスする。
洗練さと上品さで構成された「サロン」は、我が家でもお気に入りの1本だ。ちなみに以前伺ったカジュアルラインの「HANA吉兆」では、「クリュッグ グラン・キュヴェ(KRUG Grand Cuvee Brut)」ハーフを開けた。「サロン 1999」は漆塗りのワインクーラーに入って運ばれて来た。着物姿の担当さんが慣れた手つきで抜栓。

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ワインもかなり注文されるとの事で、さすがに馴れた様子である。金縁「吉兆」ロゴ入りの「バカラ」グラスに注がれる・・陽にキラキラと輝く泡が美しい。コート・デ・ブラン地区ル・メニル・シュール・オジェ村のシャルドネのみを使用したブラン・ド・ブラン。良年のみ生産し10年以上熟成してリリースとなる。
初ビンテージ1911年以降、この「1999年」が37ビテージ目だ。さぁ「向付」が運ばれてきた。目を引く乾山風の今戸焼「隅田川都鳥」は、何と白井半七作。蓋を取ると「焼いた伊勢海老」にジュレが沿えてあり、ナッツ香に穏やかな酸の「サロン」と何とも調和する・・まさにアミューズだ(笑)雪洞の中には胡麻クリームであえた春菜。

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「1999年」は暑い夏だったからだろう、トーストやナッツ系の濃く香ばしい豊潤な香りに皮をむいた白桃。薄い膜のようなミネラルの奥に微かに熟成感が感じられ、まろやかな旨みが染み出てくる。フルーティで酸味も穏やかだったため、最初からクイクイと飲み進めてしまった。そうだ、「サロン」社が世界の顧客を招待するイベントが、ここ「吉兆嵐山」にて開催予定と言う事だった。
続いて、漆塗りに美しく金の菖蒲が描かれた「御椀」は、「かさご」に「アスパラガス」の千切りを乗せて。昆布のニュアンスがぱっと飛び込んでくる出汁。まずそのまま楽しみ、次いで海苔を加えると風味が変化して更に楽しめる。添えられた「柚子の花」を口に含むと香りも広がる。

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吉兆の出汁は昆布を前日から10時間以上つけて、客に提供するため火を入れ沸騰する直前に削り節を入れて火を消す。特徴のある味わいは好みが分かれるところだろう。そして「造里」は「鯛鹿の子造り」と「ミル貝、トロ」。淡路の鯛の薄造りは昆布醤油とポン酢で、鮪と三重のミル貝はゴマと割り醤油で頂く。
「箸休」は冒頭に触れた双葉葵柄の器に入った「蛤小茶碗」だ。葱と生姜を二本の包丁で軽快に叩くという。それを茶碗蒸しの表面に止めてあり、混ぜて頂く趣向だ。蛤の苦味が生姜の微かな風味とともに余韻に心地よく響く。さてこれの前に、美しく盛られた「八寸」が運ばれていた。春らしい山梨・2色の都忘れも活けられている。

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しばし目でも楽しむ為に飾られた後、ここに来て取り分けて下さる。秋夜の八寸は蝋燭が灯されしっとりとした風情だったが、この爽やかな八寸は彩りも華やかで春の光にぴったりだ。行灯の器の「鯛の白子と肝」は人参・蓮根のきんぴらで。金縁バカラに入ってるのは「ゴリの甘露煮」。
竹籠には梅を詰めた「蕗の薹」と、じゃが芋と葱をそれぞれ乗せた「牛タン」。貝の器には「穴子」。蓮の葉には歯ざわり良い「帆立煎餅」。彩りの「車海老」などバリエーション豊かに楽しむ。共に楽しむ「サロン1999」は、飲み進めるうちに優しいミネラルの中心に上品な旨味が感じられ、程よい熟成のニュアンスが丸く覆っている。

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この1本で通すつもりが、何とグイグイと予想を超え早々に飲み干してしまった。冷酒に流れれば良いものの、つい調子にのって赤ワインを追加注文することに(笑) 私がワインリストを眺めている間も妻は上機嫌だ。そして選んだのは「シャトー・マルゴー(Chateau Margaux) 2004年」10万円程度。
黒系果実・醤油・メンソール・なめし皮・杉・・中盤は果実の甘さが酸にのって印象に残る。とても柔らかくマルゴーらしいしなやかさが好ましい。とは言えまだやや細かく緻密なタンニンが口の中を刺激する、そこから流麗な余韻が続く。和食には合わないものの、それなりに単体で楽しむ。

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 妻は美味しくて昼であることを忘れて更にクイクイ飲んでいる(苦笑) そこへやって来た「焼物」は、まさに走りの稚鮎だ!2人「お~!」と声を揃える。琵琶湖の稚鮎、しかも「塩焼き2丁」と「揚げ2丁」が時間差で提供されるから何とも嬉しい。備長炭でじっくり焼き上げた「塩焼き」は、頭と皮がパリッとして中はふんわり・・
稚鮎らしいほのかな苦みが優しく口元に残る。「素揚げ」はまさに揚げたて、熱々の食感でほくほくと香ばしさを愛おしむ様に頂く。妻は例の如く「これもっと食べたいなぁ」と言いだす。桜も終わり初夏への向かい始める季節を、お香りや苦みと共にじんわり堪能でき満足であった。

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続く「焚合」は美しい翡翠色の器に入った、山菜の餡掛けと鳥の素揚げ、そして炙った鳥だ。こうなると欲が出てくる・・何か一品追加で出来ないか、我が儘にも尋ねてみた。快く厨房に聞いて提示してくれた3種類の中から「アワビの天ぷら」をお願いする事にした。小ぶりながらサクサクと熱々の揚げたてを頂く。
そうだ思い起こせば、以前「HANA吉兆」でも、赤ワイン「ルモワスネ ヴォーヌ・ロマネ レ・スショ」に合わせて1品追加していた(笑) その時は「和牛ステーキ」だったか。最後の締めには吉兆こだわりの「御飯」。こちらでは毎年、テイスティングして使用する米を決めるのは有名な話だ。

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今回は春らしく芳しい「筍御飯」に「鶏」「京都産牛肉」が添えられた。この辺りが常識にとらわれない吉兆らしさと言うべきか。いつもながら着物姿の美しい女将が、「筍御飯」だけではなく「白御飯も如何ですか」と運んで来られたが、さすがにギブアップだった。その後は甘くみずみずしいメロンや苺など「季節の果物」を頂き、
しばし満腹感に浸りつつ陽の傾きが変わった景色を眺める。妻はさすがに酔って疲れたようだ。しばらくしてふんわり香り立つ「お抹茶」と、上品なこしあんの「桜餅」に「三色州浜団子」が運ばれた。こちらは全て自前で和菓子も作っている。総てが終わりお土産も頂き、勘定を待つ間にお茶が出されるが、その湯呑には「雪富正月屋(ゆきふる正月や)」とある。

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 つまり「雪(湯木)降る(富る)正月屋(吉兆)」、吉兆の創業者・湯木貞一氏が「吉兆」を開店した日に、降る雪を見ながら言ったものらしい。「正月屋」とは貞一氏の祖父が昔広島時代から営んでいた屋号。そして湯木の姓は、豊年瑞兆の「雪」にちなんで名乗ったとの事なので、これは湯木氏の願いを込めた縁起担ぎの言葉なのだ。
華やかな演出や遊び心がまさに「京都吉兆」。料理は純粋な京和食ではないけれど、贅沢な食材をちりばめつつ、京らしい演出。「伝統にこだわらない」という「京都吉兆」が提示する独自の味わいと言うべきだろう。夜の料理は48000円から。もしかして日本で最高価格?の料理屋の一つと言えるかもしれない。

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当然ながら「建物」「しつらえ」「器」も含まれた「吉兆ブランド」最高級料亭としての値段をどう感じるか・・人それぞれだ。本来は夫婦2人で楽しむというより、イベント・接待などで使用するのにふさわしい「ステージ」だろう。とは言え一見の少人数の客をはなから拒否している訳ではなく(予約は2名以上から)、
予約が入った以上はキッチリともてなしてくれる(サービス料金20%)。今回は昼ながらも3時間近く楽しむことができた。爽やかな風が吹き木々が美しく揺れる午後、たおやかな女将が見送る中車に乗り込み、既に初夏を思わせる賑やかな嵐山を後にした。

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