芽吹く春の某日、最近定宿な感じの「アマン東京(Aman Tokyo)」から恵比寿ガーデンプレイスへ向かう。そう言えば先月、米国プレミア・ライフスタイル誌「エリート・トラベラー」の「世界トップ100レストランランキング(The Elite 100 Restaurants)」で、マカオ「ロブション・オ・ドーム(Robuchon au Dôme)」が6位になった。アジア唯一のトップ10入りと言う訳だ。
「グランド・リスボア・マカオ」最上階に位置するこの店は、ミシュラン香港・マカオでも7年連続3ツ星を獲得している。ちなみにランキング50位以内の日本の店は、15位・京都「未在」、26位・東京「日本料理 龍吟」、29位・東京「七丁目京星」と言ったとこか。そんな話をしながら車は「シャトーレストラン ジョエル・ロブション」に到着。

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この城全体を任されているのは、ロブション氏から絶大なる信頼を得るアラン・ヴェルゼロリ(Alain Verzeroli)総料理長。そして今宵も2階、豪華バカラ・シャンデリアが輝く黄金のダイニング「ガストロノミー ジョエル・ロブション」へ。お馴染みのスタッフが揃う中いつもの席に案内される。壁ミラーやテーブルにはクリスタル、各々のバカラ照明が煌めく。
山地誠総支配人ほか代わる代わる皆さんが挨拶に来られて「今日もイケメン揃いね~♪」と妻はご機嫌(笑) 見渡せば満席、平日でも盛況な風情はさすが。さぁそんな中、我が家と言えばの信国武洋シェフ・ソムリエが登場、2月に福岡でお逢いした以来だ。色々と近況などを伺って再会を喜ぶ。この日信国ソムリエは、南アフリカのワイナリーから戻ってきたばかり。

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以前彼がワイン専門誌「ワイン王国」のデイリーワインのブラインド・テイスティングで1位に選んだのが「南アフリカのワイン」だった。それが1つの縁になって訪問する事になったと言う。ワインと言うよりもアフリカ大陸、そして南アフリカの社会構造などについて深く考えさせられたそうだ。消費者は好みのストライクゾーンを攻めれば良いが(我が家ならフランスワイン)、
プロとして日々新しいワインや地域をフォローして行かなければならない一流ソムリエの世界は、当然ながら大変だろう。さて、ロブションのハウスシャンパン「ヴーヴ・クリコ イエローラベル ブリュット マグナム(Veuve Clicquot Ponsardin Yellow Label Brut Magnum)」で喉を潤しながら、メニューについて村林篤メートル・ド・テルと相談していこう。

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今宵はスペシャリテをベースに、数品差し替えてコースを組み立ててもらう。アミューズ・ブーシュは本日完成したばかりの新作「パイナップル・マンゴーを使ったガスパチョ仕立て」。渡辺雄一郎エグゼクティブ・シェフがテーブルに登場して、自ら解説してくれた。ホワイトラムが効いていて爽やかさと刺激を加えている。
そこに添えられたスプーンのクリームを注いで頂くと、また別の味わいに昇華する。ロブションらしくエキゾチックで楽しい、完成度の高いアミューズに妻は「やだ~初っ端からこれなの?!」とテンションが既に高い。まずは一品目は本来なら定番「キャビア アンペリアル」のところを、妻のリクエストで「オマール海老 甘酸っぱい蕪のマリネ、ローズマリーの香り」に差し替えてもらう。

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これは「20周年ガラディナー」でも頂いた。蕪をまとったオマール海老は、オマールと言うより蕪のほのかな甘酸っぱさが活きた一品。香りの為に添えられたローズマリーなどの香辛料は彩りにも効果的。蜂蜜を感じさせる甘さやオマールの軽い旨味がシャンパンにはぴったりだ。そこで信国ソムリエに追加で、別のグラス・シャンパンをお願いしよう。
マイナスイオンで2万本以上が管理されている地下セラーから運ばれてきたのは「ブルーノ・パイヤール N.P.U(Bruno Paillard Nec-Plus-Ultra) 1999年」。ブルーノ・パイヤールのプレステージ・シャンパンだ。数日前にちょうど同じ物を家で開けていたので、飲み比べ的にもワクワクする。熟した感じと共に思ったよりフレッシュ感も残っている。

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ビンテージだけでなく同じデゴルジュマン(2012年)だと言うのに、家で飲んだそれと味わいはかなり違って驚く。ブルーノ・パイヤールはロブションのハウスシャンパンではなくなったが(~2013年1月)、在庫も多く今も取引があると言う。フランスで飲むワインと日本で飲むワインもコンディションの違いを感じることが多い。
その点ドメーヌから直接ロブションのセラー室に運ばれる、こちらのワインのコンディションにはいつも感心する。ロブションの楽しさの一つが「ワイン在庫・保存状態」だと改めて実感する一瞬だ。次の料理は「奈良県産リーフマウンテンエッグ 中は半熟のままカリッと揚げ、キャビアを添えて」。こちらは初めて頂くプレート。奈良の定評ある、大きな地鶏卵の周りにはサクサクのカダイフを纏わせている。

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ナイフを入れると濃い半熟の黄身がトロリと姿を見せた。白いクリームにサーモンとディル、そしてキャビアが美しいコントラスト。濃厚な玉子の味わいにキャビアで塩気を補い、クリームソースで深みを出し、サーモンで変化も加えるといった完成度の高いプレートであった。これに合わせられた白のグラス・ワインは
「ルフレーヴ ピュリニー・モンラッシェ プルミエ・クリュ レ・ピュセル(Leflaive Puligny-Montrachet 1er Cru Les Pucelles) 2011年」。レモンの皮、ハーブ、オレンジマーマレード、キレのある酸味だが甘みもあり、バランスが取れてる。透明感のあるミネラ年ル感・・いつもながらルフレーブの世界に脱帽だ。このレベルのワインがグラスで飲めるのが、ロブションならではの贅沢さ。

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そう言えば先日、「ルフレーヴ」当主アンヌ・クロード・ルフレーヴ(Anne-Claude Leflaive)氏が乳がんで亡くなった。1997年からビオディナミに転換し、「ルロワ」と共に影響力のある女性だった。ワイン造りだけでなく生き方の問題として、抗ガン剤治療を拒否していたとの事。何ともさすがと言おうか・・しかし59歳は若すぎる、とても残念だ。
さて、やってきたのは「パンワゴン」。今宵も一口サイズがたっぷり40種以上美しく盛ってある。それに続いて登場した料理は「ホウボウ オゼイユをのせ海藻のクルートでグラチネ エストラゴンの香るソラマメのエクラゼと素揚げと共に」。蒸し焼きにしたホウボウ。柔らかくその身質を活かした食感。下にはそら豆を細かく砕いて敷き、更にそら豆の素揚げを添えている。

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少量引かれたホウボウのジュのソースはぎゅっと強めで、全体の味わいのバランスが良い。「レ・ピュセル」と共に春らしく美味しく頂けた。赤ワインはいつものようにiPadのワインリストからチョイスしていこう。「シャトー・シュヴァル・ブラン 1982」にも惹かれるも「良いビンテージですが、メルローよりカベルネ好きの奥様の好みを優先しましょう」と、
信国ソムリエの実に心得たアドバイスに妻も深く頷くいている(笑) と言う事で「シャトー・ラフィット・ロートシルト(Château Lafite-Rothschild) 1979年」に決める。以前もこちらで同ラフィットは「1986年」「1978年」を開けている。今回の「1979年」は13万円と相変わらず良心的値段。他にも「シャトー・ムートン・ロートシルト 1970」も8万円と現在の市販価格に近い値段。

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 「シャトー・ラトゥール」がプリムール販売を止めたため(他の五大シャトーも追随する可能性)、今後更に価格の高騰が予想される。引退を表明したパーカーも「ボルドーの高騰は自分にも責任ある」の述懐したようだ。更に東京オリンピック景気によるワイン価格上昇の可能性もあるし、我が家も五大シャトーを飲むのは「ジョエル・ロブション」だけで・・
と言う事になって行くかもしれない(市場に流れるそれは、コンディションと値段が釣り合わなくなる可能性がある)。3月ロブションにて、「シャトー・ラフィット・ロートシルト」当主クリストフ・サラン氏を迎えたワイン会が行われたそうだが、その時開けられたのは20年間こちらのセラーで眠っていた貴重な「1937年」!何と戦争を生き抜いたワインだ。そして「1961年」との事。

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クリストフ当主もさすがに「1937年」は飲んだ事がなく、「今この一本を頂く事に感謝したい」との奥深いコメントだったそうだ。「1961年」はカベルネ・ソーヴィニヨンだけで作った年のため思ったように熟成できておらず、むしろ「1937年」の方が若々しく感じられたと言う。そんな信国ソムリエのワイン談義と共に頂く「ラフィット 1979」はまた格別であった。
今宵のラフィットは典型的なユーカリ香に続き、時間と共に杉、腐葉土といったブーケがチャーミングな酸味・・タンニンはさすがに溶け込み滑らか。70年代らしい味わいの中にも、どこかピュアさが感じられる満足の一本であった。妻も「森の中にいるみたい♪」としみじみ味わっている。これには信國ソムリエ曰く、「太陽に恵まれなかった年の方がメドックらしくてカベルネらしいとも言えますね」

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「苦労したヴィンテージこそ造り手の汗を感じる事もできます」。そんな深いワイン話のうちに登場したのは「牛フィレ肉シャトーブリアン フォワグラと抱き合わせロースト ロッシーニ的考えで」。牛・フォワグラ・黒トリュフと言う所謂「ロッシーニ」を再構成した一皿。目の前で手際良く村林メートル・ド・テルがデクパージュしてくれる・・何とも美しい断面だ。
取り分けた後テーブルでソースが掛けられ出来上がる。敢えてオーストラリア産赤身肉を使ったことにより、クドクなく食せる。味わいはやはりバランス良く、複雑な旨味が最後に蓋をする。非常に満足した味わいの余韻に浸りながら、渡辺敏伸支配人や原田聡メートル・ドテルとも歓談する。「タイユバン・ロブション」時代を含むベテラン組は相変わらずの話術で、妻も終始笑っぱなしで楽しんでいる。

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運ばれたチーズワゴンはこの日は17種類。食べ頃お勧めの「コンテ24ヶ月」「シェーブル」3種類などを丁寧に切り分けてくれる。アヴァンデセールは新作の「ル・ゼブラ ココナッツのグラス トリュフ仕立て、透き通るパイナップルに引き寄せられて」。これに信国ソムリエがサッと合わせてくれたのは「シャトー・ディケム(Chateau d’Yquem) 1998年」。我が家のお気に入りソーテルヌの最高峰、
以前こちらでも「2003年」「1995年」「2002年」と良く頂いている。美しい黄金色の液体はまさに噛みしめるような味わい。複雑なスパイスを練り込んだトロリとした蜂蜜のようだ。そんな甘さと混ざり合う酸味がまた素晴らしい。その深いハーモニーに大満足するうちに、運ばれてきたメインのデセール「マンゴー キャラメルとパッション、マンゴーのムースと共にかさね、チュイルをアクセントに」。

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 こちらも甘く爽やかな美味しさで、あっと言う間にペロリと頂けてしまう。そう最後には癒しのハーブティーを頂こう。運ばれた「生ハーブワゴン」は春らしく青々と美しい、爽やかな香りが漂う。お勧めの「レモンバーム」を基調に、それぞれ組み合わて入れて頂く。そしてハーブを寝かせている間にやって来たのはミニャルディーズ、妻お待ちかねのキラキラピンクのマカロンタワー「スイーツワゴン」だ。白蝶も止まっている。
「なにこれメチャクチャ可愛い♪ どれもこれも欲しい♪」とキャーキャー言いながらカメラを向けている(笑) 「プチ・シュー」「トリュフ・ショコラ」「飴細工」「生キャラメル」「焼菓子」「砂糖菓子」「ギモーブ」「パート・ド・フリュイ」などなどとにかく盛りだくさん、素晴らしいビジュアルだ。そこへわざわざ挨拶に出てきたくれたのが、総料理長アラン・ヴェルゼロリ氏。

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 いつも優しく紳士的なアランシェフに妻は「きゃ~♪今日もほんとに素敵ね~♪」と惚れ惚れしている。握手した手が冷たいと心配する妻に、彼は「実は裏で大好きなアイスクリームを食べてたんだよ」とウインク(笑) 毎年恒例の「黒トリュフ・ガラ」や「白トリュフ・ガラ」のテンションの高いパーティーも当然ながら美味であるが、平日の夜のディナーも落ち着き安定した美味しさに満足できる。
アランシェフが指揮を取る「ガストロノミー ジョエル・ロブション」厨房の完成度にまた脱帽させられた。今宵も心地良い余韻に包まれながら、スタッフの皆さんに見送られシャトーを後にした。そういえば来月ジョエル・ロブション氏が来日し、6月25日・26日の2日間に渡って1階「ラ ターブル ドゥ ジョエル・ロブション」でガラディナーを開催するという。実は「ラ ターブル」でのガラは初めて。

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料理も”Food & Life”をテーマに「全て野菜で構成したコース」が出される予定で、これも初めての試みとの事。ブション氏も今年4月に70歳を迎えた。いつぞやか彼が「身体に優しい料理を更に追求していきたい」と言っていた事を思い出す。その意味でもロブション氏の新たな試みは注目になりそうだ。