桜の季節も過ぎ、みずみずしい青もみじが美しい季節。爽やかな春風の吹く中訪れたのは南禅寺近く。西側にある山縣有朋の「無鄰菴」と言えば、ちょうど111年前のこの時期に無鄰菴会議が行われた。自慢の日本庭園(七代・小川治兵衛作)の芝生も、今と同じ様に青々と鮮やかに美しかったろう。
さてこの日食事に伺ったのは、そんな「無鄰菴」に隣接するもっと歴史が古い料亭「瓢亭」。土間にわらじや笠・・江戸時代そのままの掛け茶屋風情が目印だ。瓢箪の絵が揺れる玄関に車を付けると、すぐさま迎えが出てくる。いつもの様に小さな門をくぐると供待腰掛、そこから続く緑豊かな狭い石畳の通路を慎重に歩く。高ヒールの妻には濡石は一苦労だ。

20140425hyotei3

小奇麗な新別館もあるのだが、やはり歴史ある瓢亭本館で味わいたい。敷地内を通る「無鄰庵」と一緒に引いたと言う琵琶湖疏水、浅池には丸々と太った美しい鯉が行き交う。400年近く前に茶屋として始まった瓢亭、中でも創業当時からある最古の茶室「くずや」が風情だ。昨年は屋根の葺き替えや壁の塗り替えもされたとの事、維持も大変だろう。
私達はいつもその貴重な「くずや」を使わせて貰っているのだが、たまには趣向を変えて別の部屋も見てみたいと妻。よって今回は、予約の時点でその旨を伝えていた。案内されたのは、いつもの「くずや」より手前の通路を折れた奥。そこにはくずやより小ぶりで、更に木々に囲まれた静かな離れ「探泉亭」があった。明治中期に移築した柿葺きの茶室(四畳半)だ。

20140425hyotei2

角には寒竹が美しい袋棚があり、朱い縁の花頭窓が印象的。池の上に建っているのか、間近に鯉が跳ねる音がする・・奥の障子を開けると目下に鯉が集まっていた。天気が良く風も心地よいので、扉は開けたままで食事を楽しむ事を勧められた。なるほど、明るい陽射しが木々の間で揺れ、適度に部屋に入って来る。
風に吹かれる木々の音、琵琶湖疏水の音、小鳥のさえずり・・何とも贅沢な風情の中で夫婦2人静かに佇んでいると、時代をさかのぼって行く気持ちがする。そこへ女将・髙橋容子氏(14代目高橋英一夫人)と担当の方が改めて挨拶に来られ、食事がスタートする。日本酒は「亀の尾」をお願いした。妻にはひざ掛けも用意して下さる。桜の絵柄が美しい白い貝合わせの器で出て来た「向付」。

20140425hyotei4

瓢亭定番の「明石鯛へぎ造り」。この時期ならではの桜鯛を「特製トマト醤油」と「土佐醤油」の2種類頂く。加えて「空豆の素揚げ」の食感が芽吹く春を実感させる。続いて白味噌仕立ての「煮もの腕」が運ばれて来た。蓋を取ると春らしい優しい香りが立ち昇る。コゴミと湯葉が顔を見せる。漆塗りのお椀には金の桜が内側まで美しい。
やはり京都と言えばこの上品な白味噌、身体に染みわたる。甘い香りに続いて、落としてある辛子の仄かな香りが良いアクセントだ。旨味を実に巧く引き立てている。「美味しいねぇ」という言葉がまるで溜息のように口をつく。次は美しき「八寸」、名物の「瓢亭玉子」が登場だ。固い白身からねっとりと黄身が濃い、やはり今日も土佐ジローの卵だろうか。

20140425hyotei5

クリーミーな「鯛の白子」で海老・胡瓜・鳥貝などを一つの味わいにまとめ上げた「和え物」も美味。焼かれた筍と、木の芽味噌の香ばしさが絶妙の「筍の木の芽味噌田楽」。しっとりした食感から筍の旨味が流れ出すと、いかにも春と言った心地がする。妻も「木の芽味噌美味しい♪」と気に入った様子。白魚数匹を合わせて日干しにして火を入れた「白魚の筏焼き」。
春を感じさせるほのかな白魚の甘さを日本酒とともに楽しむ。そして「穴子寿司」など。滋味深いも、それぞれの素材が存在感を見せてくれる八寸だった。と言う訳で追加の日本酒はお馴染み「獺祭」。そう言えば昨日安倍総理が、国賓として来日したオバマ大統領に送ったのも、故郷・山口のこの日本酒だった。

20140425hyotei6

さて、一息ついた所で「炊き合わせ」が登場する。蕨など春の芽吹きを描いた器の中に筍・鯛子・蕨・木の芽が鎮座する。淡い味付けの出汁の風味をたたえた筍を主役に、ワラビや木の芽といった春の風味に包まれながら頂く。春を存分に満喫できる炊き合わせだろう。そして「桜鱒」はやや濃い目の味わい。タラの芽のかすかな苦みと独特の風味が重なる。
ふっくら・はらりと崩れていく上質な焼き方が満足感を高めてくれた。締めは「白蒸し寿司」。筍・貝柱と共に炊き上げられ、上には唐墨も沿えてある。穏やかな味わいながら貝柱で旨みも足した味わいだ。吸い物は春の定番「アイナメ」、そしてお隣「南禅寺」の生麩も入れてある。鮎魚女のなめらかな口当たりと上品な身が、仄かな旨味の出汁と見事に調和していた。

20140425hyotei7

水物はメロンや苺。そして最後はふんわりと風味豊かに点てられた「お抹茶(薄茶)」をしみじみと味わう。「生菓子」は「嘯月」のわらび餅か。我が家もお気に入りの和菓子屋さんでこれも頂いた事がある。女将さんと担当の方の丁寧な接客を受けながら、茶室・茶庭風情の離れの中、日本の四季を感じる美しき侘び寂びの設え・・
時が止まったかのような独特な世界観の中で夫婦2人ゆっくり過ごせた。春という季節をさりげなく、しかしきっちりと盛り込んだこの日の料理たち。味わいのトーンも繊細な中に微妙なメリハリがあり、一辺倒ではない。決して派手さはないが素材の旨みが感じられ、その存在感が印象に残る。

20140425hyotei8

定評のある「腕もの」を含め、食べた後に確かで心地よい満足感を残してくれた。伝統を引き継ぐ日本料理。それは耳を傾ければ奥に感じられる「歴史の重み」であり、日本人だからこそ琴線に触れる「四季の喜び」であることを改めて感じた。
帰りは車に乗り込み、女将さん方に見送られつつ「瓢亭」を後にした。いよいよ週末からゴールデンウィーク突入だが、ここ「南禅寺」辺りは新緑がすこぶる美しいので、きっと多くの観光客で賑わうだろう。

20140425hyotei9