2月南国福岡もさすがに寒い。この日は客人を迎えに福岡空港に向かった。「日本一便利な空港」と言われる福岡空港は、政令市内空港なのに中心部に近く(天神まで15分、中洲まで10分、博多駅まで5分)、高速インターもすぐでどこにも行き易い。羽田から少し遅れて到着したこの日の客人は、東京ミシュラン3ツ星の、
恵比寿にあるフレンチレストラン「ガストロノミー ジョエル・ロブション(Château Restaurant Joël Robuchon)」の信国武洋シェフソムリエ御一家。両親が福岡出身である信国氏、この日はお母様の墓参りと言う事での里帰りだ。ロブションでお逢いする際「いつか機会があれば福岡で食事を」という話を常々していたので、今回空港から一旦福岡中心部に寄って頂く事にした。

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色々考えたが、日本最高峰フレンチのシェフソムリエをお連れする博多のレストランはなかなか思い浮かばない。そこで趣向を変え、我が家もお世話になっている博多寿司を代表する「すし割烹 やま中 本店」を選んだ。JR九州の豪華寝台列車「ななつ星 in 九州」で最初に出される寿司は、御主人・山中啄生氏自らが握っている事でも知られている(3泊4日DXスイート2名150万円)。そして何よりここ本店には十数年前、巨匠ジョエル・ロブション氏本人が来訪している。

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空港から30分かからない薬院の裏道にあるそれは、夜に訪れる時とはまた違った風情。昼間明るい中で見る世界的建築家・磯崎新氏設計のモダンな建物もやはり迫力がある。打ちっぱなしコンクリートにガラス張りの外観は寿司屋とは思えない。中に入ると吹き抜けのエントランスにたっぷりの日差しが注ぎ美しい。
メインダイニングを覗くとお馴染み「朱塗りの壁」と「雲型和照明」が艶やか、樹齢800年「美州檜一枚板」カウンターが清々しい。見渡せばさすがアジアの玄関口福岡らしく海外からの団体客も多い。そうそう、福岡イベントがあるとの事で円谷プロダクション御一行もおられたようだ。私達はスタッフ達に挨拶をして階段で上へあがる。広々とした2階ロビーで靴を脱ぐと座敷エリア。

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まさにロブション氏が来訪時利用した「カウンター付き個室」を貸切らせて頂く。2階には他にも大・中・小の各座敷があり、京都「中村外二工務店」による茶室も備えている。大津塗りの壁やイサム・ノグチの照明、磯崎新氏の妻・宮脇愛子氏の軸やガウディ作の把手など、様々な美術品も拝見できる。
真っ赤な寿司カウンターが印象的なその個室は、10帖以上最大14名が使えるとあって広々としている。子供さん達も自由に寛げるはずだ。カウンターの後側には専用の厨房もある。いつもの様にやま中御主人の右腕である市山氏が担当、カウンターで独占して握って貰おう。こちらは日本酒の種類が多く、福井「大吟醸 黒龍」・山口「純米大吟醸 獺祭」・福岡「純米 寒北斗」「純米吟醸 若波」など楽しめる。

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シャンパンも「ボランジェ スペシャル・キュヴェ」「ヴーヴ・クリコ イエローラベル」「モエ・エ・シャンドン ロゼ」などを置いてはいる・・しかしこの日の客人は何せ信国ソムリエ、特別に私が選んだワインを持ち込ませて頂いた。と言う事でまずは乾杯、開けたのは「ボランジェ ヴィエイユ・ヴィーニュ・フランセーズ(Bollinger Vieilles Vignes Francaises Blanc de Noirs) 1999年」。
フランスの古い葡萄樹という名前の通り、フィロキセラ前から残る古木から生まれる希少なブラン・ド・ノワール。3000本程度の生産量で貴重だ。最近「2005年」ビンテージも発売されたばかり。信国ソムリエのワイン談義を伺いながら、刺身から頂いていく。「アラの焼き締め」に対して「少し土っぽいニュアンスがありますね」と言う1流ソムリエらしい独特のコメントも新鮮。

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妻は「カッコイイ~」と言うと信國氏の奥様が「ソムリエみたい」とおっしゃる(笑)やま中の御主人も度々顔を出されて一緒に乾杯もする中、ふくよかな「鯛」や豊前の「赤貝」など次々出される。脂の乗った「時鯖」には千枚カブラを乗せて頂く。事前に打ち合わせた際に「博多らしく、そしてやま中らしくゴージャスに」とお願いしていたので、色々極上を仕入れてくれていたようだ。
やはり博多は白身、続くは自慢の「フグ刺し」だ。古伊万里に盛られた「厚引きの河豚」を博多らしい橙入り「特製ポン酢」で頂く。更に目の前に登場したのは迫力の「トラフグの白子」。いつもの様に串刺しの炭火焼きにしてもらう・・カウンター越しに流れ出す香ばしさが食欲をそそる。ちなみに信国家のお子さんには「茶碗蒸し」や「ワタリ蟹」、修行に入っている和食屋(佐賀ミシュラン2ツ星)御子息が作った「酢飯のお握り」(笑)、

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「玉」などを楽しんでもらう。さぁ続いて大人たちは冬の高級魚、博多の真骨頂「アラ(クエ)」のシャブが登場する。さっと目の前で軽く湯を通したアラの切り身が、テンポ良く各人の皿に置かれていく。「これを食べに来たの♪」と妻はワインもそっちのけだ。繊細でいて存在感のある脂が旨みとともに爽やかに広がる。「アラ刺の豊かな脂」や「焼き上げたアラのプリッとした旨さ」とは違う贅沢な味わい。
次は玄海の「アワビ」、今日の為にゆっくりと8時間かけて炊いたと言う。吸い付くような味わいに満足する。ここで赤ワインも開ける事にしよう。こちらも持ち込んだ「コント・ジョルジュ・ド・ヴォギュエ ミジュニー・ヴィエイユ・ヴィーニュ(Comte Georges de Vogüé Musigny Cuvée Vieilles Vignes Grand Cru) 1988年」だ。客人の信国ソムリエに注いで頂く(申し訳ない 笑)

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実は信国夫妻にとって、二人で訪れたブルゴーニュ「ドメーヌ・コント・ジョルジュ・ド・ヴォギュエ」は特別な思い出があるとの事。醸造長フランソワ・ミエ氏の優しさを感じるエピソードを聞かせて頂く。イチジク・紅茶・土などの熟成香。それほど広がりはないものの、綺麗にそれなりに熟成した「ミジュニー」で何とかほっとする。
信国ソムリエはさすがプロらしく、ボトル裏の輸入元をチェックしており、色々と情報を教えてくれる(笑) そんな頃いよいよお待ちかね、「フグ白子焼き」が出来上がった。年明けこの時期ならではの大きな白子はとってもクリーミー。表面焦げ目を破ってトロトロに流れでる白子に妻も「昼とは思えない~♪」と大喜び。その後もまだまだ続いて「ワタリ蟹」に「フグ唐揚げ」、寒い日だったので熱々の「ウニを乗せた茶碗蒸し」も頂いた。

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そう言えば器も色々美しく有田焼「源右衛門」の他、唐津焼の田中佐次郎作なども登場した。さて最後はいつものように軽く握りを頂いていこう。九州では早くから赤酢を利用してきた「やま中」・・存在感のあるシャリと博多前らしい新鮮なネタの、程良いバランスを楽しめる握りだ。「白アマダイ」の昆布締め、そして「ヤリイカ」は塩・柚子で。
「鮪のあぶり」に、この時期美味しい「北海道産バフンウニ」。更に茹でたて熱々の「天草産車エビ」、ふっくら甘い「穴子」と一通り楽しんだ。その後は温かい「しじみの味噌汁」、そして福岡と言えばやはり「苺」で締めた。振り返れば良く食べてる(笑) さてここで追記、ついでなので少し遡ろうかな。前回こちらを夜に訪問した際の事を、まだ書いていなかったので合わせて挙げておく。

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その夜は平日頭でいつもよりは空いていて過ごしやすかった。欧米やアジアなど海外からの客が多く、英語を中心に色んな言語が飛び交っている。シャンパーニュは酒リストの中から「ボランジェ スペシャル・キュヴェ・ブリュット(Bollinger Special Cuvee Brut)」をチョイスして乾杯する。刺身は「玄海の鯛」とやっぱり外せない「アラ(クエ)」。
この時は50キロ程度だったと記憶している。更に「壱岐の鮪」の蕩けるような脂が印象的だった。「対馬の鯖」は軽く締めてゴマ塩を振ってある。綺麗な酸味に昆布とゴマの風味がバランス良い。そしてシャンパーニュに合わせてと言う事で「岩塩を振ったフグ」が登場する。定番「特製ポン酢」は使わずに敢えて橙のみを絞り、好みでネギ・唐辛子を巻いて頂くと言う、いつもと違った趣向だ。

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透けて見える古伊万里の絵柄も美しく、「まさにカルパッチョ仕立てね♪」と妻も楽しそうだ。程よく湯引きした「ふぐ皮」と、ネットリしたした「あん肝」は佐賀「純米 東一」の熱燗で頂く。米の香りがふんわりと立ち上がる。「河豚から揚げ」は身を活かしたプリプリの揚げ具合。続く「カラスミ、バチコ、イワシの三点盛り」も日本酒に良く合い、何とも日本の冬らしいしみじみとした美味さだ。
唐墨は2週間かけて作った自家製。バチコは柔らかい口直しで好み。イワシもほろほろと崩れていく身が旨みを感じさせる。玄海の「蒸し鮑」はジュと共に。ふっくらと歯にまとわりつくような食感から、柚子の皮がふんわりと香り爽やかさも演出する。まだまだ酒のツマミは続く・・美しい紅白の「蟹の爪」はふっくらした甘み、そしてゼラチン豊富な「焼いたアラ」も熱々絶品で、

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更には大好物ふっくら「ふぐの白子焼き」と、妻の興奮が収まらないお気に入りメニューが一気呵成にやってくる(笑) 目の前にて串刺しでじっくり火にかけられた白子は、九谷焼に盛られて香ばしさと共に運ばれる。表面の焦げ目が完璧で、ネットリしたクリーミーな濃厚さが素晴らしい。やはりこれは外せないだろう。隣の香港からのお客さんも、こちらにつられて追加注文していた(笑)
そろそろここで握りへと移行しよう(かなりお腹はいっぱいだが)。昆布締めした「白甘鯛」はさすが博多、軽くボイルした「車海老」は自然な甲殻類の甘さが染みでてくる。美しい細工の「イカ」は塩と柚子が、仄かに溶けていく。一日経った「対馬の鮪」は、仄かな酸味と甘みが渾然となる。甘くフワフワの「穴子」まで来て、最後は香り豊かな「松茸の土瓶蒸し」で締めた。

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この時のチェリ~ちゃんへのお土産は、いつもの様に「ゴージャス太巻き」と更に「ゴージャス握り」もお願いする。いつもにも増してイクラやウニや、贅沢な素材が盛りだくさん。妻も「私も食べよう♪」ととても嬉しそうだった(もちろんチェリ~も大喜びだった)。そんな前回の訪問を踏まえ、今回の信国一家へのおもてなしを御主人と相談させて貰ったと言う訳だ。
そう言えば御主人のお母様の旧姓が「信国」と言う事で、偶然にも盛り上がった。信國姓と言えば福岡・黒田藩の刀匠筑前信国派。珍しい名で福岡では遡っていくと大体同じ家系に繋がる。御主人は包丁で、信国ソムリエはソムリエナイフでと言う事か・・不思議な縁を感じる瞬間であった。気が付けばすっかり長時間が経ち、日も傾き始めていた。筑前へ向かう途中までお送りし、信国ソムリエとまた恵比寿「ジョエル・ロブション」での再会を約束し別れた。

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