連日イベント続きでバタバタしてはいたが、この日昼時に向かったのは丸の内にできた「日本生命丸の内ガーデンタワー」。パレスホテル東京の横に位置し、皇居外苑・和田倉濠を一望できる素晴らしい立地だ。地下1階から地上3階の商業ゾーンには、飲食店を中心とした20店舗が出店。明るい日差しが降り注ぐ中、11月7日のオープン直後でエントランスロビーにはお祝いの花が美しく溢れていた。
中でも注目は日本には初上陸、イタリアミシュラン3ツ星ハインツ・ベック(Heinz Beck)シェフがプロデュースするプレミアレストラン。1階部分はガラス張りで6.5mの吹き抜けが目を引くオールデイダイニング「センシ バイ ハインツ ベック(sensi by Heinz Beck)」100席、そして2階がファインダイニング「ハインツ ベック(HEINZ BECK)」34席となる。

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店舗デザインはMOMAやアップルストアで知られる植木莞爾氏(Casappo & Associates)が手掛けている事もあり興味深い。入り口でスタッフに出迎えられ、黒と赤を基本色にしたカジュアルモダンな「センシ バイ ハインツ ベック」を横目に、ライトアップされた階段を上がって行く。そこにはライトベージュで統一されたシックな「ハインツ ベック」があった。大きな窓の向こうには和田倉濠の美しい水景が広がっている。
ちょうどハインツ・ベック氏がオープンに合わせ来日しているとの事で、私達は早速ランチを頂きに訪れた。ベック氏は実はドイツ生まれ。イタリア・ローマ「ラ・ペルゴラ」のシェフとして2005年にミシュラン3ツ星を獲得した。2009年には初の自分のレストラン「アプスレイス(Apsleys at Heinz Beck Restaurant)」をロンドンに開き、わずか5か月でミシュラン1ツ星を獲得。

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 その後、ポルトガルやドバイなど世界各地にてレストランを展開し、今回初めて自身の名前を冠した「ハインツ ベック」を日本にオープンしたのだった。ランチではあったが、ディナーと同じメニューの「9皿コース(19000円)」を頂く事にする。「美食と健康」を追求する、ベック氏の独創的な料理が楽しめる。
ドイツ人シェフであることからも想像できるように、イタリアの風を感じる郷土料理ではなく、イノベーティブな「ハインツ・ベック料理」と言えそうだ。ちなみにランチ限定で「4皿コース(前菜・パスタ・セコンド・ドルチェ)」8000円もある。アラカルトも対応しており、例えば「季節の野菜と雄鶏のトルテリーニ 燻製にした雄鶏のコンソメスープ」

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「牛蒡とシブレットのタリオリーニ アルバ産白トリュフ添え」「ポレンタ うずら卵とグラナパダーノのソース アルバ産白トリュフ添え」などもあった。入口右側奥、ダイニング手前には美しいワインセラーが設置されている。ワインリストは最近では珍しい厚めの物。ザッと目を通した感じでは値付けは高めの印象。グラスワインメニューはないものの、スプマンテ(シャンパンも)・白・赤ともに複数用意されていた。
と言う訳でまずは乾杯と行こう。グラスで「カ・デル・ボスコ フランチャコルタ キュヴェ・アンナマリア・クレメンティ(Ca’ del Bosco Franciacorta Cuvee Annamaria Clementi) 2005年」を頂く(NVのカ・デル・ボスコも用意されていた)。穏やかな熟成感が、程よいミネラル感や蜂蜜のニュアンスと共に広がる。爽やかさもあるためランチにも合う。

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「ウイキョウ入りチップス」「ゴマ入りのグリッシーニ」と共に出てきたのは、生産量の大半を購入し本店「ラ・ペルゴラ」でも提供していると言う、こだわりのラツィオ産オリーブオイルだ。そしてアミューズが黒い個性的な器一式で登場する。妻は興味深々で、聞けば有田焼と言う。レストランではお馴染みの「カマチ陶舗」にオーダーしているそうだ。特注なので少しずつ届いては使うという状態だとか。
そのモダンな有田焼には、アーモンドとオレンジのソースで頂く「ハーブサラダ」、「雄鳥のコンソメスープ」、パルメザンと白トリュフの香りの絡み合う「ほうれん草のマカロン」、唐辛子がアクセントの「タピオカのフリット」が美しく並ぶ。そうそう、ここで総支配人の矢野智之氏が挨拶に来られた。黒を基調としたユニフォーム(セクションで色々と違う)、デザインはコシノジュンコ氏だそう。

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一人一人オーダーではないが、それぞれサイズ補正して細かく身の丈に合わせているとの事で、皆キッチリ着こなせている印象。矢野氏と話している所へ、モクモクとスモークを立ち上げながら「カンパチのホワイトバルサミコのマリネ ザクロの粉雪」が運ばれてきた。「ラ・ペルゴラ」20周年記念ランチで提供して好評だったと言う一品だ。
白いプレートの底にドライアイスが隠れていて、テーブルでユーカリ水が注がれると、スモークが湧き出てくるという演出。フワッと何とも言えない香りがテーブルに流れ出し、気分を上げてくれる。ホワイトバルサミコで15秒程度だけマリネした、うっすらと色付く「カンパチ」のネットリした味わい。そこに妻が「可愛い~♪」と喜ぶ「ザクロのピンク」の微かな粘りも重なる。

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美味しいというより面白い食感と味わいが、コースの流れを予感させてくれる。添えられた紫色の「シャドークイーン」も華やかに何とも美しい一皿だった。ここでシャンパーニュを頂きたくなり、グラスで「クリュッグ グラン・キュヴェ(KRUG Grand Cuvee Brut)」を追加する。続いてやって来たのは「燻製した帆立貝と赤ビーツのチップス」。
スチールのモダンなプレートに、可愛いピンクの「桜」に見立てるは、マイナス41度でフリーズドライした赤ビーツだ。ホタテの柔らかいネットリ感の後から、桜のチップでスモークし仄かに纏わせたフレーバーがふんわりと漂う。軽く添えられたソースはカルダモンとホタテ。これまた香りと食感が新鮮な、そして美しい一皿。

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次は「輝く海と砂浜を歩く様なイメージで作られた」と言うプレート「海」。テーブルでスープが注がれると、岩礁に見立てたそれが「海水」のように溶け出す・・何とも儚げなエメラルド色の海だ。妻は「淡い自然の美しさを感じるプレートね」とうっとりに眺めている。ウニや半生の貝類に海葡萄などが、まさに海の滋味深さを感じさせる。
敢えて温度は低めに設定したという甲殻類のスープの塩気が、これまた海水を彷彿とさせる。この辺りから好みの味覚に近づいてきた。という訳で更に、白ワインもグラスで頂くとしよう。ソムリエお勧めの「ラ・コロンベーラ イル・モンティーノ コッリ・トルトネージ(La Colombera IL MONTINO Colli Tortonesi DOC Timorasso)」だ。

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ラベルも個性的、ワイン畑にラ・コロンベーラのロゴが凧になっている(笑)ティモラッソ100%爽やかなイエローが輝く。レモンの皮・はちみつ・花・・アタックは薄いがそこから果実味凝縮が広がる。開いて来るととソーヴィニヨンブランのような草ぽさも感じる。そしてお待ちかねの「ファゴッテッリ ハインツベック」の登場。
ハインツ・ベックのスペシャリテの一つ、いわゆるカルボナーラを現代風に再構築した噂のプレートだ。一見普通のラヴィオリのようだが、口の中でカルボナーラソースが広がり、口の中でカルボナーラが完成するという仕掛けである。ズッキーニ、グアンチャーレの塩気で、きちんとカルボナーラそのものの味わいに昇華する。見た目より濃厚、少量ながらも食べ応えあって、なるほどスペシャリテというだけある美味なプレート。

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イル・モンティーノにも良く合った。ここで妻はスペシャリテ「ファゴッテッリ ハインツベック」に満足したのか、もうお腹が一杯だと言い出す(笑) そこへスパイスの香り漂わせ「カレー風味のクロスタを纏った鱈 セロリのソース」がやってきた。カレー風味のクルトンが面白い食感と風味で食欲をそそる。セロリのソースの心地よい苦みや、インカの目覚めの仄かな甘さも印象に残る。
そのためお腹一杯のはずの妻もペロッと食していた。そして続く「サラミに見立てた鹿のエミンセ」。鹿のロース肉をかなり薄くスライスし、ラルドによって旨味を加えている。鮮やかな紫サツマイモとイタリアン産アーチィチョークが美しく映える。香りたつ鹿肉のフォンのソースと共に、贅沢な口直しというニュアンスで軽く頂けた。

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これにはグラスの赤ワイン「シルヴィオ・メッサーナ モンテセコンド キャンティ・クラシコ(Chianti Classico Azienda Agricola Montesecondo Di Silvio Messana) 2011年」を合わせてゆっくり楽しむ。2004年からのビオディナミ、樽ではなくアンホォラで熟成した「モンテセコンド」は、自然な果実味にあふれ透き通った優しい味わい。
そしてもう1種類赤ワインをグラスで頂く、「カヴァロット バローロ リゼルヴァ・ブリッコ・ボスキス ヴィーニャ・サン・ジュゼッペ(CAVALLOTTO Tenuta Barolo Riserva Bricco Boschis “Vigna San Giuseppe”) 2006年」だ。古典派バローロと言えば「カヴァロット」。1948年からの老舗で不耕起栽培を行っている。

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モノポール「ブリッコ・ボスキス」中、最良「サン・ジュゼッペ」の古木(樹齢74年も)で造られる。熟成を感じさせる色合いから、すべらかなタンニンが口元に残る。さてメインの「ピスタチオのクロスタを纏った仔牛のフィレ肉 タマネギとドライフルーツ詰め」がやってきた。肉厚の乳飲み仔牛フィレ肉は美しいロゼ色の断面、中央にはタマネギとドライフルーツが詰めてある。
下に敷かれたソースからも干しぶどうの旨味がネットリした口当たり。塩気は控え目にしてソースで頂く。肉の外側に付けられたピスタチオの風味を強く感じながら、どこか軽やかに頂ける。コースの流れの中でも塩気のメリハリがあり、ソースと頂くとちょうど良いバランスになった。

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気が付けば時間も経っていて、満席だった店内も少しゆっくりと楽しめる状態になっていた。そこへデザート一品目、「柿のクリームと栗のアイスクリーム アルバ産の白トリュフ添え」が運ばれる。「さぁ行きますよ」の掛け声で、イタリア本店から赴任したイタリア人マネージャーがたっぷりの白トリュフを、目の前でガシガシと思い切り削って行く!
アイスクリームが隠れる程の白トリュフの何とも香しく悩ましい香りに、妻も「キャ~♪これはたまらないわね」と大喜び。続いて2品目のデザート「赤い果実の冷静スフェラ お茶のクリーム 結晶化したラズベリー」だ。ピンクの球体の登場に妻がまたもや「可愛い♪」と嬉しそう。こちらは華やかで軽やかな演出が女性に喜ばれそうだ。

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チョコレートとベルガモットティーのクリームを敷き、その上にラズベリーやブルーベリーなど赤い果実からできた冷製スフェラが目にも印象的に鎮座する。スフェラの下にはチョコレートのサブレやラズベリーの結晶も添えている。コースの最後にふさわしい可憐な酸味と心地よい口当たりだった。ランチである事を忘れる程の変化に富んだメニューの流れに満足。
最後はお勧めを組み合わせた薫り高い「ハーブティー」とプチフールを頂つつ寛いでいた。そこへテーブルに現れたのはハインツ・ベック氏ご本人!妻がキャーキャー言うのでベック氏も終始笑顔、色々お話を伺う事も出来た。総勢6・7名が「ラ・ペルゴラ」で研修すると共に、「カステッロ・ディ・フィギーネ(Castello di Fighine at Heinz Beck Seasons)」からアントニオ・ストランミエッロ(Antonio Strammiello)を料理長に就任させたと言う事。

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ちなみに銀座「ブルガリ イル・リストランテ」ルカ・ファンティン(Luca Fantin)シェフもアントニオシェフ同様「ラ・ペルゴラ」出身のベック愛弟子。オープンしたての今は緊張感もあり、選び抜かれたスタッフ達が頑張っているので、しばらくは本場イタリア本店で提供している味わいが楽しめるだろう。現時点で味わいの着地点は日本的ではないから、ある意味面白い味覚が味わえるかもしれない。
いわゆるモダン系と言うかフュージョン系と言うか(店側はイノベーティブ料理としている)、そちら方向が好きな人は楽しめそうだが、量も味もガツンとした郷土色豊かなイタリアンを好む人には合わないだろう。いずれにしても、料理の世界の多様性を感じる事が出来る素敵なレストランが、また一つ誕生したと言えそうだ。

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皇居からの穏やかな日の光が差し込む清潔感ある空間、女性好みの美しいプレートはランチデートに最適。もちろん友人との優雅なランチも良いだろう。まだ一般にはそこまで広報していないとの事、どこも賑やかなこれからの時期はそう言った意味でも穴場と言えるだろう。
しいて言えば、連なる長ソファ側は隣席が近くて落ち着かないので、特にデートの場合はガラス側(ロビー側)の独立した丸テーブル席をお勧めする。また近い内に今度はディナーに伺いたいねと話しながら、総支配人たちに見送られつつ車に乗り込み丸の内を後にした。