この夜はディナーの為に「ANAインターコンチネンタルホテル東京(ANA Inter Continental Tokyo)」へ車を走らせる。エキゾティックでLED照明が賑やかなホテルロビーは、カジュアルな出で立ちの外国人客が多く、同エリアの「グランドハイアット東京」とは客層が全く異なる感じで面白い。エレベーターで36階に到着、久しぶりの「ピエール・ガニェール(PIERRE GAGNAIRE)」だ。
輝く美しいワインセラーに囲まれたエントランスを抜け、洞窟の様な細い空間を過ぎると、一気に奥に広がるオレンジ系のエキゾティックなダイニング。窓の向こうには美しき夜景、東京タワーや虎の門ヒルズなども近くに見える。ダイニング中ほどにいくつかある並んで座るカップルシートも良いのだが、今回は一番奥の窓際、静かなテーブルに案内して頂く。

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キャンドルグラスがいくつも浮かび上がってロマンティックな風情。メニューを拝見しながらまずはシャンパーニュで乾杯。今宵も妻の鉄板たる「ドン・ペリニヨン ロゼ(Dom Perignon Rose) 1995年」を開けよう。当然ながら「やっぱり極上のピンクよね~♪」とはしゃぐ妻。ダイニングの照明と呼応するようなキラキラピンクオレンジの泡は、控えめで熟成を感じさせる。
「1995年」なのでさすがにミネラルは溶け始め、カクテルのようなまろやかさも。そして酸味を残す余韻は長い。ベジタブルなニュアンスと共に後を引く旨味に引き込まれる。運ばれたアミューズは多種多彩に「ウサギのリエット」「クリのペースト」「生姜風味のサブレ」「サーモンのタルタル」など。そして「エシレを練りこんだパン」、ヒマワリの種や胡麻ほか「雑穀と共に焼き上げたバケット」などを頂く。

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今宵はピエール・ガニェールご本人が来日中なのでダイングは賑やか。67歳になったガニェール氏は13店目としてサウジアラビアに出店準備中との事・・相変わらずエネルギッシュだ。さて今宵頂くのは、この3日間だけ頂ける「山口フェア」25000円。食材のほとんどが山口県産という特別コース(創作料理)だ。
安倍昭恵首相夫人の希望で実現したこの企画。「美食王国やまぐち親善大使」に就任したガニェール氏は、2度(昨年6月・10月)山口県入りし、フグやウニ等の水産物、見島牛や長州黒かしわ等の農畜産物の産地を訪ね、オリジナルの萩焼も作ったとの事。「山口フェア」に先立ってこちらで行われた「創作料理発表会」には、山口県知事・県議・国会議員・在日フランス大使、これの為に萩焼の器を制作した三輪和彦氏や坂倉新兵衛氏などが出席したようだ。

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前菜のスタートは「ゆず吉のジュレ、山口県産雲丹、岩国蓮根のラメルとミニフレッシュハーブを添えて」「山口県産雲丹のロワイヤルと梨」「白ビールとライムでマセレした山口県産車海老、フレッシュ生姜とぶどうのジブレ」から。「ゆず吉」とは萩原産の柑橘類。その他にも雲丹・蓮根・車海老など山口の食材をふんだんに盛り込んだ前菜となっていえる。例えば白ビールでマリネした車海老には、ブドウのジュースだけで作ったグラニテも添えてある。
そこに生姜やライムのアクセントが仄かに香るところがガニェールらしい食後感。全体的にかなり爽やかな前菜といった趣き。妻は目を丸くして「びっくりするくらいフレンチではないよね??」 続いて「重源の郷でポッシェした山口県産鮑、鮑の肝でリエしたポロ葱のクリーム、豚のトランシェとチョリソーを添えて」。日本酒でほんの軽くポシェしたと言う鮑はふっくらと仕上がっている。肝とポワローを合わせたソースが深い旨味に溢れて美味。

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チョリソーも何とも言えないアクセント。これはフレンチらしい味わいで、一気に引き込まれるようなプレートで良かった。さて今宵は、料理に合わせて日本酒・焼酎のペアリングセットも用意しているとの事。せっかくなのでそれを楽しむ事にする。用意されていた日本酒は4種類。山口県側から提供された14・15種類を試飲して決めたらしい。
まず妻が好きな純米大吟醸発泡にごり酒「獺祭スパークリング」をお願いしよう。実は食前酒として用意されていた様だが、遅ればせながらここで出してもらう。食後酒でも良さそうな味わい・・米をシャンパンで研いだとぎ汁のようなニュアンス。下手すると浮いてしまう米の香りが美しく整えられてる感じが、完成度の高い一つのお酒のあり方を示唆している。

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前半戦のプレートに合わせて用意されていた日本酒は、岩国の八百新酒造株式会社「純米大吟醸無濾過 雁木」。サブネームは瀬戸の「ゆうなぎ」と言うだけあって、柔らかな飲み口。これと合わせて頂くは「鱗焼きにした萩産甘鯛のロースト、タラゴンとコリアンダーフレッシュ、茄子のキャビアとオクラを添えて」。萩産甘鯛はなかなかの品質が定評で、地元福岡の和食店やレストランでも良く見掛ける。
甘鯛の皮はかなりクリスピーな仕上がり。「鱗焼き」自体は定番だが、もう少しバリバリに仕上げられる事の方が多い。敷かれた茄子のペーストにフォンドボーも合わせたソースが深くて良い。レモンやライムも香って爽やかさも加えてあるので、余韻に心地良い酸味が広がり、見た目よりも重くない。

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 極めて繊細な、儚い鱗加減がとても印象的で、味わいとも合っていた。次に運ばれたプレートは「塩でマリネした山口県産オコゼのカルバチョ、緑野菜のカクテルとトマトのペースト、日本酒とリンゴのソルベと共に」。トマトのクーリの濃縮したような甘みが特徴的な一皿。日本酒のソルベも添えてある。ケチャップのようなニュアンスが、林檎の甘みと塩気と呼応する。
これに合わせられたのは、周南の中島屋酒造場「純米大吟醸 寿」。その穏やかな甘さも更に加わって、もう全くフレンチ感はない。確かに「創作料理」というか日本料理でもない・・ガニェール氏の苦心した様子が伺えそうだ。そして口直し的な「山口県産サザエ、タコのグリルと剣先イカのガレット、玉葱のクリスティアン添え」。これもまた、提供された素材を何とか盛り込んだと言う感じか。

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先程同様つまみ的な日本酒のアテのようだった。更に続いて「柑橘の皮と一緒にポワレした山椒の香る見蘭牛サーロイン肉、キャラメリゼした赤キャベツのスック、カレー風味のじゃがいものピューレ」が運ばれる。見蘭牛とは、萩市沖合の見島にいる和牛純血の天然記念物「見島牛」と、ホルスタインを掛け合わせた雑種。山口ではウリの牛肉として旅館・料理屋でも良くメニューに出されている。
この一皿は、その見蘭牛の柔らかい繊維を感じる肉質を活かしたポワレ。柑橘や山椒の香りを重ねて、エスニックな爽やかさも感じる。こちらに用意されていた日本酒は、山口市の新谷酒造「純米吟醸無濾過生原酒 わかむすめ新(にゅう)」。トロリとした質感のある飲み口で、ふくよかな米の存在感。程よい酸味が、深い甘さと旨味を押し広げてくれる。

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さてデセールはやっとガニェール氏らしくアートな多皿が次々に運ばれて来た。「抹茶のアイスクリーム、味りんのキューブとヴェルヴェーヌ風味の桃と共に」「スイカのソルベ、フランボワーズのクーリーと赤スグリのワルツ」。更に「ルバーブのコンポート、フレッシュイチジクのマカロナードとクレム・バレシューズ」「黒ゴマのパルフェ・グラッセ、ザクロのシロップ、カシス・エクラテとご一緒に」と艶やかだ。
そこでソムリエが勧めてくれたのは、何と「焼酎」の食後酒。面白そうなのでお願いしてみる。それはシャルドネ樽貯蔵43度の「寝太郎」。山陽小野田・永山酒造が所有するワイナリーで、白ワインを貯蔵していたヨーロッパ製樫樽使用の米焼酎原酒との事。薄い琥珀色、ブラインドだとスコッチかと思う甘い香り。余韻でやっと焼酎らしい独特の風味になる。

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 最後のプチ・フールもガニェールらしく充実している。「ショコラ・ノワールのマルタとアマレナチェリー」「バラの香りのルクム」「フルーツのセッシュ(パイナップル、グレープフルーツ、青りんご)」。華やかなデセールに合わせて、残しておいた「ドン・ペリニヨン ロゼ 1995」も出して貰う。フレンチらしく締めくくって、最後は妻のテンションも上がって良かった(笑)
山口産の「ウニ」「アワビ」「アマダイ」「オコゼ」「剣先イカ」「見蘭牛」「岩国レンコン」「長門ゆずきち」等を盛り込んだ、苦心?の跡が伺えるメニューを楽しんだ不思議なディナーであった。今思えば千葉メートル・ド・テルは、遠回しに「アラカルトでなくて良いですか?」と勧めてくれていた。

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 初日の「発表会」で出されたという「萩焼」皿も期待していたのだが、ガニェール氏が却下した(フランスに持ち帰るのだろう)との事で、残念ながら拝見する事は出来なかった。ちなみにその後、9月いっぱいはこのメニューをアレンジした「山口フェア」が行われていた。
今宵は「ドン・ペリニヨンの包容力」「フレンチの懐の深さ」「はまった時のガニェールの美味しさ」を、ある意味、逆説的に再認識できた。今度はリニューアルしたダイニングで、フレンチ王道の世界をアラカルトで楽しみたいねと話しながら、ガニェール氏来日で満席に賑わっている「ピエール・ガニェール」を後にした。

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