この日訪れたのは銀座5丁目あずま通りにある「ドミニク・ブシェ トーキョー(Dominique Bouchet Tokyo)」。昨7月末にオープン(グランドオープンは9月)、早々にミシュラン東京で2ツ星を獲得した事でも話題になった。パリ8区で経営している「レストラン ドミニク・ブシェ パリ(Restaurant Dominique Bouchet Paris」(ミシュラン1ツ星)の東京店になる。「DB」と照らされた黒い看板が目印だ。ブシェ氏は1974年ジョエル・ロブション氏に見いだされ、
1978年に「ジョエル・ロブション」の前身である「ジャマン」(当時ミシュラン2ツ星)の料理長となる。1981年には「トゥール・ダルジャン」(当時ミシュラン3ツ星)の総料理長となり東京店もオープンさせる。1997年からは「オテル・ドゥ・クリヨン」(当時ミシュラン2ツ星)の総料理長を務めた後、2004年に自らの名を冠した「レストラン ドミニク・ブシェ」を開業させた。

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螺旋階段を降りた地下1階に入り口、扉の向こうに広がっているのはウェイティング「ドミニク・ルーム」。奥の壁にはブシェ氏の歴史を物語るセピア色の写真が所狭しと飾られ、ゆったりとしたソファーがいくつも置かれている。バーカウンター前には一面に「ドミニク・ブシェ」ブランドのワインが並び、華やかにライトアップされている(谷山直義氏設計)。
この日はちょうど来日していたブシェ氏と百合子マダムが笑顔で出迎えて下さる。月一回は来日してパリと東京を半々で行き来していると言うからハードだ。さぁ地下2階メインダイニングへ・・小さな螺旋階段を降りると一気に広がる視界。天井高で解放感があるダイニングは優しいアイボリーでまとめられ、ブシェ氏らしい穏やかさと清潔感に包まれている。

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吹き抜けになっているのでウェイティングからも全体を見下ろせる。カーテンで仕切る半個室が2つ、壁際には小さめのテーブルがいくつか並ぶ。壁にはブシェ氏と30年来の友人であるフランス画家ピエール=マリ・ブリッソン(Pierre-Marie Brisson)氏作の「ドガのダンサー」が飾られ、テーブルにセットされているプレート(有田焼「D.B Kamachi」)とも良く合う。
まずは乾杯。パークハイアット東京で「ルイ・ロデレール ブリュット・プルミエ」を既に飲んでいたので、グラスシャンパーニュを頂くことにしよう。「グジェール」「黒オリーブのサブレ」と一緒に頂くのは、妻希望のサーモンピンクな「ピエール・ミニョン ブリュット・ロゼ DBオリジナル(Pierre Mignon Brut Rosé Dominique Bouchet)」。

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ブシェ氏自らセパージュを考案したもので、パリ店とここ銀座店でしか味わえない特別なシャンパーニュ。ディナーメニューは「7種類からなるコース」、前菜・魚・肉を「アラカルトメニューから選択出来るコース」などが用意されている。前回の「前菜・魚・肉の3種コース」は量的にやや物足りなかったので、今宵は「シェフお任せメニュー(Menu Decouverte)」を、大き目なテーブルの半個室にて頂くことにする。妻も嬉しそうだ。
まずは一皿目「キャビアとウニをのせたオマール海老のジュレ セロリとウイキョウ」。ポシェした「オマール海老」を真ん中に配置し、周りのコンソメジュレに美しく浮かぶのは「1粒ずつキャビアを乗せたセロリ」。オマール海老のジュレをザッとすくって口に運ぶと、甲殻類のクリアでいて贅沢な深みある旨みが、セロリの清涼感ある香りと共に鼻から抜けて行く。

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繊細で奥深い・・上品でいてフランス料理らしいエスプリにあふれた一皿だ。次は「日本酒でマリネしたフォアグラ 柚子の香りの野菜のジュレ 果物のコンポート」。辛口日本酒で4・5時間マリネしたフォワグラは、滑らかでリッチな味わい。日本酒によって和のニュアンスというよりも、深いまろやかさを加えた一品だろう。
と言って単調な味わいではなく、添えられた「マンゴーのジャム」「スモモのジャム」「野菜の旨味の凝縮したジュレ」と共に、飽きることなく洗練された味わいをじっくり最後まで楽しめる。これに合わせてサービスして頂いたソーテルヌ「シャトー・ラフォリー・ペラゲイ(Chateau Lafaurie-Peyraguey) 2003年」とも抜群の相性を見せてくれた。

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続いては「オマール・ブルーのロティ ハーブのラビオリ 貝類のジュ」。黒い皿に彩りも艶やかだ。白ミルガイ・アサリ・ハマグリなど複数の貝類の、複雑な旨味と風味が印象的な一皿。食べ応えのあるプリッとした「オマール海老」に、バターの中にもハーブの爽やかさが一緒に追いかけてくる立体感。とてもフレンチらしい構成であるが、洗練された軽やかさもある。
ディルなどハーブを練り込んだラビオリは、とても薄く仕立てたもので、繊細でこれもまた美味だった。そして「ハタの『海と大地の出会い』お米のブイヨン サフランの香りのジャガイモと野菜」が登場する。ふっくらとヴァプールされた「ハタの身」に、赤米のブイヨンと白ワインで仕上げたソースが目の前で注がれる。フォンというより日本の出汁のようなイメージで仕上げたという。

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「赤米のチップス」「イタリア米のリゾット」も添えられ食べ応えもある。お赤飯的小豆の様なとろりとした風味が何とも面白い。日本人でもなかなか気づかない「日本人のDNAに響く」風味だと、妻はかなり気に入っていた。そこで思い出したのは「WOWOW ノンフィクションW」。以前「フランス料理の巨匠 日本で作る人生の一皿 ドミニク・ブシェ 銀座で真のレストランを目指す10ヶ月」が放映されていたのだが、
その中でブシェ氏が試行錯誤しながら作り上げていった一皿が、正にこれだった。「ドミニク・ブシェ トーキョー」ではパリ店とほとんど同じメニューが食べられるそうだが、この一皿は東京店のみでの提供。まさに日本におけるインスピレーションを、日本人のために創作した一皿と言えそうだ。さて続いては赤ワイン、ワインリストを拝見する事にしよう。

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一年前の開店当時、ワインは全てブシェ氏がパリからを持ち込んでいた。現在は少しずつ増やしていっている段階・・若いものが多く飲み頃は少ないため、ワイン好きはなかなか選択に迷うかもしれない。メインの「仔羊」に合わせてボルドーに目を走らせる。まだ若いだろうな・・苦渋の選択で結局「シャトー・マルゴー(Chateau Margaux) 2004年」をチョイスする。
デキャンタージュしてゆっくりと時間をかけて味わうことにしよう。まだタンニンはザラつきを見せるものの、ドライフラワー様のニュアンスも少し出始めている。果実の凝縮感とエレガントな酸が高度なバランスを示す。時間と共にスパイス、果実の香りもどんどん開いてきた。若いながらもマルゴーらしい上品な味わいだろう。

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コースで予定されているプレートは「牛テールの赤ワイン煮込み ミレニアムカップ」だったが、前回頂いていたため、今回は「仔羊のフィレ トマトのコンフィ ナスのピュレのコロッケ」に差し替えてもらった。シンプルな仕立てながら「ニュージーランド産仔羊」が香り立つような、しっとり綺麗なフィレ肉。
添えられた「丸いコロッケ」にナイフを入れると茄子のピュレがトロリと出てくる。ちなみにラギオールナイフは「クロード・ドゾルム(Laguiole Claude Dozorme)」。茄子やラルドの脂を合わせて頂くと、口の中でまろやかな味わいが渾然一体となって現れる。少し強めの「マルゴー」とも良く合った。マルゴーをゆっくり味わう為にチーズも追加で頂くとしよう。

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私は「24か月のコンテ」「ロックフォール」など。妻はいつものようにシェーブルの中から「サントモール」「ヴァランセ」などを頂いた。それらを楽しみながらダイニングを眺めていた妻が、いきなり「あれは何?」と遠くを指さして聞いている。見れば小さな白い兔??17世紀頃発見された「蛍石(フローライト)」を原料とする永遠に白い石、
「ブラン・ビジュ(BLANC BIJOU)」で製作された白ウサギ「ジョキオ(JOKIO)」のミニチュア。フランス人彫刻家ジャック・オブザレック氏の作品だった。パリ「メゾン・エ・オブ ジェ」や香港「ファイン・アート・アジア・コレクション」でも紹介された美しい「ミニ・ジョキオ」を、わがままにもテーブルに運んで貰う妻(笑)

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それを眺めながら、デザート「ショコラブランとエキゾチックフルーツのスフェール&キーウィのソルベ」を頂く事にしたようだ。それはホワイトチョコレートで球状に形成した、リングケースの様に美しい姿。球体を砕くとフルーツ類が顔を見せ、ネットリした食感と共に美味しく頂ける。添えられた冷んやり「キーウィのソルベ」も爽やかだ。
最後はフィナンシェやギモーヴなど「パリジャンの小菓子」と「ハーブティー」で締めくくった。開業当初は、クラシックな技術をベースにしつつも、現代風に、そしてかなり軽やかな味にまとめ上げている印象だった。今回も現代的な軽さはあるものの、素材が複雑にそして立体的に浮かび上がってくる様な、味わいの奥行きが感じられた。またソースや付け合わせと主素材との一体感が練られたプレート。

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そのため美味しく頂けると共に、食後も何を頂いたか明確に記憶に残る。一皿一皿の楽しさもあるし、コースの完成度も高く、妻共々満足な時間を過ごすことが出来た。最後テーブルに顔を出してくれた厚東創シェフは、穏やかな語り口の中にも、前向きな直向きさが伺えて好感が持てる。
29歳の彼に東京店を任せ才能を引き出し、自然に導いて行くブシェ氏の包容力も、このレストランの素晴らしさの一つだろう。マダムはじめソムリエ・サービス陣がチームワークよくまとまっており、品のある空間の上品な接客のおかげで、居心地の良い時間を過ごすことができた。追記:ちなみにこの後12月でこちらは一時閉店し、翌年夏に「ドミニク・ブシェ トーキョー」は銀座1丁目に移転リニューアルオープンした。